「狂乱の霧」
戦争は始まった。
いや。
最初から始まっていたのかもしれない。
ただゼルクロノス達が知らなかっただけで。
白い空間は崩壊していた。
安定派の建造物が砕け散る。
空間そのものが悲鳴を上げている。
「うおおおおお!!」
一人のゼルクロノスが突撃する。
次の瞬間。
別のゼルクロノスに頭を吹き飛ばされた。
爆発。
衝撃波。
悲鳴。
戦場は混沌そのものだった。
ゼルクロノスは上空へ飛ぶ。
全体を見渡す。
そして絶句した。
「多すぎるだろ……」
どこを見てもゼルクロノス。
赤と金の姿。
数百万。
数千万。
いや。
もっといる。
別宇宙の数だけ存在するゼルクロノス達。
それが互いを殺し合っていた。
「ゼルクロノス!」
ゼクロスが叫ぶ。
「上だ!」
反射的に身体を捻る。
直後。
巨大な斬撃が横を通過した。
空間が真っ二つになる。
「チッ!」
攻撃した相手を見る。
知らないゼルクロノスだった。
顔には狂気が浮かんでいる。
「死ねぇぇぇ!!」
さらに突っ込んでくる。
ゼルクロノスは拳を握った。
ゴン!!
一撃。
相手は吹き飛ぶ。
だが次が来る。
その次も。
さらに次も。
終わらない。
「キリがねぇ!」
ゼルクロノスは叫んだ。
その時だった。
頭の奥で。
声が聞こえた。
『返せ』
ゼルクロノスの動きが止まる。
『なぜ殺した』
『覚えているか』
被害者達の声だった。
「黙れ」
『忘れるな』
「黙れ!!」
ゼルクロノスは頭を押さえる。
ゼクロスが驚く。
「おい!?」
「なんでもねぇ!」
だがなんでもよくなかった。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。
戦場。
被害者。
憎しみ。
怒り。
全部が混ざっていた。
その瞬間。
何かが切れた。
ブチッ。
そんな音がした気がした。
「……もういい」
ゼルクロノスは呟く。
ゼクロスが振り向く。
「え?」
ゼルクロノスの目から光が消えていた。
「全員黙れ」
ドォォォォォン!!
凄まじいエネルギーが噴き出す。
周囲のゼルクロノス達が吹き飛ばされた。
「なんだ!?」
「こいつ!!」
ゼルクロノスはゆっくり手を上げる。
黒い霧が現れた。
ドロドロとした闇。
空間を侵食する霧。
ゼクロスが目を見開く。
「それは……」
ゼルクロノス自身も知らなかった。
だが自然と分かった。
使える。
そう理解してしまった。
「行け」
黒い霧が広がる。
戦場を覆う。
一人のゼルクロノスが触れた。
直後。
叫び声を上げる。
「ぎゃああああああ!!」
膝をつく。
身体は無傷。
だが精神が壊れていく。
「やめろ!」
「頭が!!」
「やめてくれ!!」
次々と倒れていく。
狂乱の霧。
それは肉体ではなく精神を蝕む力だった。
ゼクロスが震える。
「お前……何を……」
ゼルクロノスは答えない。
ただ霧を広げる。
被害者達の声が聞こえなくなった。
その代わり。
戦場全体の悲鳴が聞こえる。
それが妙に心地よかった。
「そうだ」
ゼルクロノスは笑う。
「黙らせればいい」
誰も。
何も。
聞こえなくなるまで。
その時だった。
遠くから声が響く。
「そこまでだ」
空間が揺れる。
戦場の一部が吹き飛んだ。
無数のゼルクロノスが弾き飛ばされる。
ゼルクロノスは顔を上げた。
そこにいた。
ゼルクルス。
最初に出会った別宇宙の自分。
「やっと見つけたぞ」
ゼルクルスは静かに言う。
だがその目に浮かぶ感情は一つだった。
怒り。
「お前はまた逃げた」
ゼルクロノスは笑う。
「何言ってんだ」
「現実からだ」
ゼルクルスが一歩前へ出る。
空間が震える。
「お前は被害者達から逃げた」
また一歩。
「自分から逃げた」
さらに一歩。
「そして今」
ゼルクルスの周囲に凄まじい力が集まる。
「また戦争から逃げようとしている」
ゼルクロノスの笑みが消えた。
「逃げてねぇよ」
「なら戦え」
ゼルクルスが腕を振る。
ドォォォォォン!!
見えない衝撃。
絶対吹き飛ばし。
ゼルクロノスは反応する間もなく戦場の彼方まで吹き飛ばされた。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!」
空間を何百枚も突き破る。
止まらない。
吹き飛びながら。
ゼルクロノスは見た。
遠く。
戦場の外。
一つの巨大な光。
宇宙のような。
太陽のような。
あまりにも巨大なエネルギー。
「なんだ……あれ」
その光は静かに脈動していた。
まるで呼吸するように。
そして。
ゼルクロノスはまだ知らない。
それこそが。
ゼルクロノスコア。
全てを変えてしまう力であることを。
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