「戦争の始まり」
幹部は何も言わなかった。
ただゼルクロノスを見ていた。
ゼルクロノスは荒い呼吸を繰り返す。
「はぁ……」
「はぁ……」
頭が痛い。
胸の奥が気持ち悪い。
だがそれ以上に苛立っていた。
「お前知ってたんだろ」
幹部は答えない。
「ここが何なのか」
答えない。
「なんで俺をここに来させた」
沈黙。
ゼルクロノスの拳が震える。
殴りかかろうとした。
だがその瞬間。
幹部が口を開く。
「来るなと言った」
ゼルクロノスは動きを止めた。
「……」
「お前は見てはいけなかった」
「何をだ」
「まだ早かった」
意味が分からない。
ゼルクロノスは舌打ちした。
「ふざけるな」
幹部はそれ以上何も言わない。
そして。
グブォン。
再び裂け目が開く。
「待て!」
ゼルクロノスが叫ぶ。
だが幹部は振り返らない。
そのまま裂け目へ消えた。
「クソッ!」
ゼルクロノスも飛び込む。
視界が反転する。
次の瞬間。
白い世界へ戻っていた。
安定派の空間。
何も変わらない。
静かな世界。
だが。
ゼルクロノスにはもうそう見えなかった。
「気持ち悪ぃ……」
完璧すぎる。
静かすぎる。
まるで全てを隠しているようだった。
後ろから声がする。
「ゼルクロノス!」
ゼクロスだった。
駆け寄ってくる。
「無事だったか」
「……ああ」
だが無事ではなかった。
頭の中に残っている。
あの視線。
あの声。
あの憎しみ。
「見たのか」
ゼクロスが聞く。
ゼルクロノスは少し黙った。
そして言う。
「俺が殺した奴らだった」
ゼクロスの顔色が変わる。
「やっぱりか」
「知ってるのか」
「全部じゃない」
ゼクロスは苦しそうに言う。
「でも聞いたことはある」
「何を」
「安定派には秘密がある」
ゼルクロノスは睨む。
「最初から言えよ」
「言えなかったんだ」
「は?」
「思い出そうとすると頭がおかしくなる」
ゼクロスは頭を押さえた。
「本当に言えないんだ」
ゼルクロノスは黙った。
嘘には見えなかった。
その時だった。
ゴォォォォォン。
空間全体が揺れた。
二人は同時に顔を上げる。
「なんだ」
また揺れる。
今度はもっと大きい。
白い空間に亀裂が走った。
「なっ!?」
ゼルクロノスの目が見開く。
あり得ない。
安定派の空間が壊れている。
周囲のゼルクロノス達も騒ぎ始めた。
そして。
警報のような音が鳴り響く。
ゴォォォォォォン。
ゴォォォォォォン。
今まで聞いたことのない音だった。
遠くで誰かが叫ぶ。
「侵入だ!」
「統一派だ!」
空気が一変する。
静寂は消えた。
平和は終わった。
白い空間の一部が砕け散る。
その向こうから無数の光が現れた。
ゼルクロノス達だった。
安定派ではない。
別の派閥。
統一派。
個々派。
そして。
どちらにも属していないゼルクロノス達。
数え切れない。
まるで宇宙そのものが押し寄せてきたようだった。
「始まったぞ」
誰かが呟く。
ゼルクロノスは息を呑む。
「これが……」
ゼクロスも呆然としていた。
「ああ」
「戦争だ」
その瞬間。
爆発。
白い空間が吹き飛ぶ。
戦闘が始まった。
ゼルクロノスの前を光線が通過する。
後方で数人のゼルクロノスが吹き飛ばされる。
怒号。
衝撃。
破壊。
全てが一瞬で始まった。
ゼルクロノスは拳を握る。
さっきまで見ていた光景が頭から離れない。
被害者達の声。
憎しみ。
怒り。
それでも。
戦いは始まってしまった。
「ゼクロス」
「なんだ」
「生き残るぞ」
ゼクロスは少し笑った。
「ああ」
次の瞬間。
二人は同時に飛び出した。
全ゼルクロノス戦争。
その始まりだった。
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