「違和感」
それから数日が経った。
ゼルクロノスは安定派で生活していた。
仕事らしい仕事はない。
戦いもない。
ただ宇宙の状態を観測し、異常がないか確認する。
それだけだった。
昔のゼルクロノスなら退屈で発狂していただろう。
だが今のゼルクロノスはそうでもなかった。
むしろ少し安心していた。
誰も傷付かない。
誰も死なない。
そんな日々だったからだ。
だが。
違和感だけは消えなかった。
ある日。
ゼルクロノスは白い通路を歩いていた。
その時。
向こうから一人のゼルクロノスが歩いてくる。
すれ違う。
その瞬間。
ゼルクロノスは気付いた。
「あれ?」
そのゼルクロノス。
昨日も同じ場所を歩いていた気がする。
同じ時間。
同じ方向。
同じ表情。
ゼルクロノスは振り返った。
だが相手はそのまま歩き続けている。
「気のせいか?」
そう思った。
だが翌日。
また見た。
同じ場所。
同じ時間。
同じ表情。
同じ動き。
ゼルクロノスは眉をひそめた。
「なんだこれ」
その日の夜。
ゼクロスを見つけた。
「なあ」
「なんだ?」
「同じ奴を何回も見ないか?」
ゼクロスは少し考える。
「同じ奴?」
「ああ」
「別に」
ゼルクロノスは腕を組んだ。
「俺の気のせいか」
「疲れてるんじゃないか?」
「かもしれないな」
そう答えたが。
納得はできなかった。
さらに数日後。
今度は別の違和感があった。
ゼルクロノスは広場にいた。
そこでは数十人のゼルクロノスたちが話していた。
話している。
はずだった。
だが。
内容が聞こえない。
いや。
聞こえている。
だが記憶に残らない。
数秒前に聞いた会話が思い出せない。
ゼルクロノスは顔をしかめた。
「なんだこれ」
不気味だった。
まるで重要な部分だけ消されている。
その感覚だった。
ゼルクロノスは思わず広場を離れた。
胸騒ぎがする。
嫌な予感がする。
何かがおかしい。
その日の夕方。
ゼルクロノスはゼクロスを探した。
見つけたのは白い建物の近くだった。
「ゼクロス」
「おう」
「お前ここ変だと思わないか」
ゼクロスは少し驚いた顔をした。
「またその話か」
「まただ」
ゼルクロノスは真剣だった。
「記憶がおかしい」
「会話が残らない」
「同じ光景を何度も見る」
「なんか変なんだ」
ゼクロスは黙った。
珍しく。
すぐには返事をしなかった。
しばらくしてから口を開く。
「実は俺も少し思ってた」
「やっぱりか」
「でも考えすぎだと思うようにしてた」
ゼルクロノスはため息を吐く。
やはり気のせいではない。
二人とも感じていた。
「調べるか」
「調べるって何を?」
「全部だ」
ゼルクロノスは空を見上げた。
どこまでも白い。
雲一つない。
完璧な空。
完璧すぎる空だった。
その時だった。
遠くで見覚えのある姿が見えた。
幹部。
あのゼルクロノスだった。
幹部は誰とも話さず歩いている。
だが。
その進む先。
空間が僅かに揺れた。
ほんの一瞬。
裂け目のようなものが見えた。
「見たか」
「ああ」
ゼクロスも見ていた。
幹部は何事もなかったように歩き続ける。
だが。
今確かに見えた。
隠された空間。
隠された何か。
ゼルクロノスは立ち上がる。
「追うぞ」
「おい待て」
「ここで止まる気はない」
ゼルクロスも立ち上がった。
二人は幹部の後を追い始める。
まだ知らない。
その先に。
安定派が隠している秘密があることを。
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