「安定」
ゼルクロノスは安定派へ入った。手を取った瞬間、周囲の景色が変わる。無数の宇宙が見えていた空間は消え、静かな白い世界が広がっていた。争いも破壊もない。ただ静寂だけが存在している。
「ここが安定派か」
ゼルクロノスは辺りを見回した。
一人のゼルクロノスが前を歩く。案内役らしい。
「ここでは宇宙の均衡を守る」
「均衡?」
「宇宙同士が干渉しすぎれば崩壊が起きる。だから俺たちはそれを防いでいる」
説明だけ聞けばまともだった。少なくとも統一派よりは平和そうに見える。ゼルクロノスはしばらく案内されながら歩いた。
白い大地。
白い空。
白い建造物。
どこを見ても同じだった。
数時間ほど歩いた頃、一人のゼルクロノスが近づいてきた。
「新入りか?」
「ああ」
「俺はゼクロス」
ゼクロスは手を差し出した。
ゼルクロノスも握り返す。
「ゼルクロノスだ」
「知ってる。ここじゃ全員ゼルクロノスだからな」
ゼクロスは笑った。
案内役が去った後、ゼクロスは肩をすくめる。
「正直言うと俺も入ったばかりなんだ」
「そうなのか」
「ああ。だから偉そうなことは言えない」
その言葉にゼルクロノスは少し安心した。
数日が経った。
ゼルクロノスとゼクロスはよく話すようになっていた。戦った敵の話。失敗した話。宇宙の話。同じ存在だからこそ話せることも多かった。
ある日。
二人は白い建造物の上に座っていた。
ゼルクロノスは周囲を見ながら呟く。
「なあ」
「なんだ?」
「ここは本当にいい場所なのか?」
ゼクロスは首を傾げた。
「どういう意味だ?」
「なんかおかしくないか」
ゼクロスは少し考える。
「平和だからじゃないか?」
ゼルクロノスは首を振った。
「違う」
「じゃあ何だ」
「感情が薄い」
ゼクロスは黙った。
ゼルクロノスは続ける。
「誰も怒らない」
「誰も悲しまない」
「誰も疑わない」
「平和というより止まってるみたいなんだ」
しばらく沈黙が続く。
やがてゼクロスが口を開いた。
「……言われてみれば変かもな」
「だろ」
「みんな同じ顔してる」
ゼルクロノスは周囲を見る。
歩いているゼルクロノスたち。
話しているゼルクロノスたち。
だがどこか機械のようだった。
その時だった。
遠くに一人のゼルクロノスが見えた。
周囲の者たちとは明らかに違う。
誰も近寄らない。
誰も話しかけない。
ただ静かに歩いている。
「誰だあれ」
ゼクロスも視線を向けた。
「あれは幹部だ」
「幹部?」
「ああ。安定派の上の方にいる奴らしい」
ゼルクロノスは目を細めた。
幹部のゼルクロノスはこちらを見た。
本当に一瞬だけだった。
だが。
なぜか嫌な感覚が走る。
まるで自分の中身まで見透かされたようだった。
「……なんだ今の」
「俺も分からん」
ゼクロスも表情を曇らせる。
幹部のゼルクロノスは何も言わず、そのまま空間の奥へ消えていった。
ゼルクロノスはその背中を見続ける。
心の中に小さな違和感が残った。
安定派は本当に正しいのか。
本当に平和な場所なのか。
まだ何かを隠しているんじゃないか。
その疑問は小さい。
だが確実に芽生えていた。
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