「迷い込んだ戦場」
ゼルクロノスは宇宙を飛んでいた。目的地はカプ星。あの戦いの後、自分は変わらなければならないと思っていた。かつてなら力で全てを解決しようとしただろう。だが今は違う。傷付けた者たちと向き合うため、まずはカプ星へ行かなければならなかった。
「さて、どうやって話したもんかな」
ゼルクロノスは頭をかく。自分がしてきたことは消えない。許されるとも思っていない。それでも行かなければならない。そう考えていた時だった。
グブォォォォン!!!
突然、宇宙空間が歪んだ。星々が引き延ばされる。光が捻じ曲がる。ゼルクロノスは即座に異変を察知した。
「なんだ!?」
次元移動で逃げようとする。しかし遅かった。空間そのものが裂け、ゼルクロノスを飲み込む。景色が消えた。音も消えた。そして次の瞬間、ゼルクロノスは見知らぬ大地へ叩きつけられた。
ドォン!!!
「ぐっ……」
立ち上がる。赤黒い空。歪んだ地平線。知らない宇宙だった。
「ここはどこだ……」
周囲を見回した時だった。
「クソなんだ」
背後から声が聞こえる。
ゼルクロノスは振り向いた。そして固まった。
「……は?」
そこに立っていたのは自分だった。同じ姿。同じ鎧。同じ顔。鏡を見ているようだった。
「お前は……俺?」
男は静かに答えた。
「そうだ」
「俺は別宇宙のお前だ」
「ゼルクルス」
ゼルクロノスは眉をひそめた。別宇宙の自分。理屈では理解できても実際に見ると話は別だった。
ゼルクルスは続ける。
「俺もカプ星へ行った」
「説得しようとした」
「謝ろうとした」
「仲良くなろうとした」
その声は次第に重くなる。
「だが石を投げられた」
「瓶を投げられた」
「怪物と呼ばれた」
「死ねと言われた」
「消えろと言われた」
ゼルクロノスは黙る。想像はできた。
「そのくらい覚悟してたんじゃないのか」
ゼルクロノスがそう言うと、ゼルクルスは乾いた笑いを漏らした。
「覚悟はしていた」
「だが耐えられなかった」
しばらく沈黙が続く。
「だからって俺を巻き込むな」
ゼルクロノスは背を向ける。
「俺は帰る」
しかしゼルクルスは道を塞いだ。
「帰れない」
「は?」
「お前には今から戦争に参加してもらう」
ゼルクロノスが意味を聞こうとした瞬間だった。
空間が裂けた。
一つではない。
十。
百。
千。
数え切れないほど。
そして裂け目の中から現れた。
全てゼルクロノスだった。
重力を操るゼルクロノス。
炎を纏うゼルクロノス。
身体が崩れかけているゼルクロノス。
静かに佇むゼルクロノス。
無数の自分。
ゼルクロノスは目を見開いた。
「なんだよ……これ」
その中から一人が前に出る。
「安定派」
「宇宙をそのまま維持する」
さらに別のゼルクロノス。
「個々派」
「全てを独立させる」
そして最後に現れたゼルクロノスは圧倒的だった。
「統一派」
「全てを一つにする」
空気が震える。
ゼルクロノスは言葉を失った。
ゼルクルスが静かに言う。
「違う」
「お前がたくさんいるんじゃない」
「俺たちがいる」
「全宇宙に」
ゼルクロノスは周囲を見渡す。そこにいる全員が別々の人生を歩んできた自分だった。
安定派のゼルクロノスが手を差し出す。
「選べ」
「どこへ行く」
ゼルクロノスは考える。
昔の自分なら統一派を選んだだろう。
力で全てをまとめる道を。
だが今は違う。
しばらく沈黙した後、ゼルクロノスはその手を取った。
「俺は安定派に行く」
その瞬間、遠くでゼルクルスが小さく笑った。
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