「狂気」
ドン!!
レグルスの拳がドクの顔面に叩き込まれた。
ドクが壁にぶつかる。
棚が倒れる。
本が散乱する。
ルクスの服も床へ落ちた。
だが。
ドクは服を気にしなかった。
普段なら絶対にそんなことはしない。
だが今は違った。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。
ただ。
目の前のレグルスを殺したかった。
理由は無い。
なのに。
そう思った。
ドクは近くの椅子を持ち上げた。
そして振り下ろす。
バキィ!!
椅子が砕ける。
レグルスの額から血が流れる。
レグルスは笑った。
いや。
笑っているつもりはなかった。
顔がそうなった。
気付けば。
拳が出ていた。
ドゴォ!!
ドクの腹に入る。
ドクが吐く。
胃液。
血。
床に広がる。
だが止まらない。
殴る。
蹴る。
髪を掴む。
頭を壁に叩き付ける。
ゴン!!
ゴン!!
ゴン!!
ドクの額が割れる。
血が流れる。
レグルスも鼻血を出していた。
互いにボロボロだった。
なのに。
やめられない。
やめようとも思わない。
そして。
外。
異変は既に始まっていた。
ある男が通行人を殴った。
理由は無い。
殴られた男も殴り返した。
別の場所。
親子が包丁を持って争う。
恋人同士が首を絞め合う。
友人同士が石を持って殴り合う。
街中で悲鳴が響く。
誰も止めない。
止められない。
みんな同じだった。
理性が壊れていた。
基地の隣人が物音を聞いた。
「何だあれ」
壁の向こう。
何かが壊れる音。
怒鳴り声。
叫び声。
そして。
悲鳴。
慌てて軍へ通報した。
数分後。
軍人達が駆け付ける。
「開けろ!!」
ドンドンドン!!
扉を叩く。
返事は無い。
中から聞こえるのは殴打音だけ。
軍人は扉を破った。
バン!!
部屋の中を見て固まる。
血だらけだった。
ドクも。
レグルスも。
正気ではなかった。
「何をしている!!」
軍人が叫ぶ。
二人は同時に振り向く。
その目を見て。
軍人は寒気を感じた。
人の目じゃない。
獣だった。
軍人達が飛び込む。
レグルスを押さえ付ける。
四人。
五人。
それでも押さえ込む。
レグルスは床へ押し付けられた。
普通なら終わる。
だが。
レグルスは能力者だった。
「離せ」
低い声だった。
能力発動。
弾く。
その瞬間。
ドン!!!
空気が爆発した。
軍人達の身体が吹き飛ぶ。
壁へ叩き付けられる。
骨が折れる音。
悲鳴。
そして。
一人。
運悪く。
心臓を弾かれた。
胸が陥没する。
男は何が起きたか理解する前に死んだ。
もう一人。
首の骨が折れる。
その場で絶命。
ドクが後ずさる。
レグルスを見る。
血だらけのレグルスを見る。
だが。
次の瞬間。
ドクの視線が窓へ向いた。
外。
街。
燃えていた。
建物が燃えている。
車が燃えている。
そして。
人が人を殺していた。
道路の真ん中。
男が男の頭を石で潰す。
女が包丁を振り回す。
老人が杖で子供を殴る。
そこら中で殺し合い。
悲鳴。
怒号。
血。
死体。
まるで地獄だった。
レグルスも窓を見る。
言葉を失う。
世界が壊れていた。
そして。
机の上。
渦巻き状の結晶が。
再び。
不気味に光った。
まるで。
何かを喜ぶように。
誰も気付いていなかった。
この時。
地球規模で。
同じ現象が起きていることを。
人だけではない。
犬も。
猫も。
鳥も。
獣も。
互いを殺し始めていたことを。
そして。
世界が終わろうとしていることを。
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