「希望のカケラ」
ルクスの遺体は日本へ運ばれた。
誰も騒がなかった。
誰も叫ばなかった。
ただ静かだった。
あまりにも静かだった。
ドクはずっとルクスの側にいた。
運ばれる時も。
検視の時も。
埋葬の準備の時も。
ずっと。
そして埋葬の前日。
異変が起きた。
ルクスの遺体から。
小さな光が零れ落ちた。
コロン。
床に落ちる。
それは結晶だった。
青白い結晶。
だが普通の結晶ではない。
渦巻き状だった。
まるで回転そのものを閉じ込めたような形をしている。
ドクはそれを拾った。
冷たくない。
ほんの少し温かい。
ドクは震える声で言った。
「なにこれ」
結晶を見る。
「なにこれ」
手が震える。
「これ……ルクスなの?」
レグルスは結晶を見る。
しばらく黙る。
そして首を横に振った。
「違う」
ドクは結晶を見る。
離したくなかった。
「じゃあ何」
レグルスは答えた。
「多分」
少し考える。
「ルクスの能力だ」
ドクは黙る。
能力。
回転。
あの力。
何度も見てきた。
人を守った力。
人を傷付けた力。
最後には世界を壊しかけた力。
その欠片。
レグルスは結晶を見つめる。
「能力が結晶として残ったんだろうな」
ドクは何も言わなかった。
ただ結晶を握る。
握り締める。
それだけだった。
そして翌日。
ルクスは埋葬された。
雨だった。
空も泣いているみたいだった。
参列者は多くなかった。
戦争中だからだ。
それでも。
ドクはいた。
レグルスもいた。
墓標が立てられる。
土が被せられる。
終わった。
全部。
本当に。
終わった。
ドクは最後まで動かなかった。
ただ見ていた。
土の下へ消えていく棺を。
ずっと。
見ていた。
そして数日後。
デヴァイス本部。
食堂。
昼。
本来なら人がいる時間だった。
だが今は誰もいない。
静かだった。
テーブルの一つにドクが座っている。
目の前には服があった。
ルクスの服だった。
戦争へ行く前に使っていた服。
洗濯されている。
血も無い。
綺麗だった。
ドクはゆっくり畳む。
一枚。
また一枚。
何度も。
何度も。
丁寧に。
ルクスは服を脱ぎっぱなしにすることが多かった。
だから。
いつもドクが怒っていた。
「ちゃんと畳みなよ」
そう言うと。
ルクスは笑っていた。
『あとでやる』
そう言って。
結局やらなかった。
ドクの手が止まる。
静かだった。
食堂には誰もいない。
笑い声も無い。
食器の音も無い。
何も無い。
ドクは服を抱き締めた。
そして。
小さく呟く。
「馬鹿」
返事は無い。
当たり前だった。
もう。
返事をする人はいない。
机の上には。
あの渦巻き状の結晶が置かれていた。
小さな。
本当に小さな欠片。
だが。
それだけが。
ルクスが確かにここにいた証のようだった。
ドクは結晶を見つめる。
窓から夕日が差し込む。
結晶が少しだけ光った気がした。
だが。
気のせいかもしれない。
ドクは何も言わない。
ただ静かに。
ルクスの服を抱いていた。
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