「静かな戦場」
無限回転は消えた。
ついさっきまで世界を壊していた轟音が嘘のようだった。
静かだった。
あまりにも静かだった。
風だけが吹いている。
その風が血の臭いを運んでいた。
戦場は地獄になっていた。
基地は跡形もない。
建物は消えた。
道路は抉れた。
大地には巨大なクレーターがいくつも出来ている。
そこら中に兵器の残骸が転がっていた。
砕けた装甲車。
潰れた戦車。
折れた銃。
曲がった剣。
焼け焦げたヘルメット。
そして。
それだけではなかった。
泥の中に手が落ちている。
誰のものか分からない腕だった。
少し離れた場所には足があった。
軍靴を履いたまま。
持ち主はどこにもいない。
さらに進めば血痕がある。
だが身体は無い。
服だけが残っている。
銃だけが残っている。
まるで人だけが世界から消されたようだった。
無限回転が通った場所だった。
そこには死体すら残っていない。
存在そのものが消えていた。
海岸線も変わっていた。
海は大きく抉れ。
岩場は削り取られ。
まるで巨大な獣が地面を食い荒らしたようだった。
そんな場所に一人だけ残っている者がいた。
ルクスだった。
倒れている。
動かない。
血まみれだった。
右腕は失われている。
左足も無い。
身体中に傷がある。
服は破れ。
血で黒く染まっていた。
目は閉じている。
もう何も見ていない。
もう何も聞いていない。
その頃。
日本。
レグルスは通信室にいた。
異常なエネルギー反応。
巨大災害級反応。
セートラス方面で発生。
その報告を受けてから嫌な予感が消えない。
通信兵が叫んだ。
「現地基地との通信が完全に途絶しました!」
「観測不能です!」
レグルスは歯を食いしばる。
嫌な予感がどんどん大きくなる。
後ろから足音が聞こえた。
ドクだった。
「ルクスがいる場所だよね」
レグルスは答えなかった。
答えられなかった。
ドクはそれだけで理解した。
何かあった。
そして。
良くないことが。
「行く」
短かった。
だが強かった。
レグルスは止めなかった。
数時間後。
二人は現地へ到着した。
降り立った瞬間。
ドクは息を呑んだ。
レグルスも言葉を失った。
戦場が無かった。
そこにあったのは墓場だった。
二人は歩く。
砕けた兵器の横を。
消えた建物の跡を。
血の跡を。
誰のものかも分からない腕の横を。
ドクは顔を逸らした。
それでも進む。
ルクスを探すために。
さらに歩く。
そして見つけた。
巨大なクレーターの中心。
そこに一人だけ倒れている人影を。
ドクが走った。
転びそうになりながら。
何度も足を取られながら。
泣きそうになりながら。
「ルクス!!」
返事は無い。
ドクは膝をついた。
震える手で肩に触れる。
冷たい。
嫌になるほど冷たい。
「ルクス」
返事は無い。
「ねぇ」
返事は無い。
「起きて」
返事は無い。
ドクの肩が震え始める。
レグルスが近付いた。
何も言わない。
言えない。
ルクスを見る。
戦場で何度も傷だらけになった姿を見てきた。
だが。
今は違った。
分かってしまった。
レグルスはゆっくり膝をつく。
首元に手を当てる。
何も感じない。
胸にも手を当てる。
何も感じない。
静かだった。
あまりにも。
静かだった。
レグルスは手を離した。
ドクはその表情を見た。
それだけで理解してしまった。
「嘘だよね」
レグルスは答えない。
「嘘だって言ってよ」
答えない。
答えられない。
「レグルス」
震える声だった。
「起きるよね」
答えられない。
ドクの瞳から涙が溢れる。
そして。
ルクスにしがみついた。
「嫌だ」
小さな声だった。
「嫌だよ」
涙が落ちる。
何滴も。
何滴も。
ルクスの服に落ちる。
だが。
もう届かない。
ルクスは死んでいた。
完全に。
確実に。
戦場の中心で。
たった一人。
死んでいた。
風だけが吹いていた。
その風は誰も救わなかった。
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