「生かす理由」
輸送車の中は慌ただしかった。
「血圧低下!」
「脈が弱い!」
「止血急げ!」
医療兵達が叫ぶ。
ルクスは意識が無い。
呼吸も浅い。
右肩から先は無い。
左足も失われている。
失血量だけならとっくに死んでいてもおかしくなかった。
「なんで生きてるんだ……」
一人の医療兵が思わず呟く。
本当にそうだった。
普通なら死んでいる。
何時間も前に。
だがルクスはまだ生きていた。
身体の周囲では小さな回転が発生している。
無意識。
本人も気付いていない。
それが僅かに出血を抑えていた。
「能力の影響か」
「分からん」
「とにかく生かせ」
輸送車は走る。
デミクロンはその声を聞いていた。
外で。
一人。
座り込んで。
血まみれの手を見ていた。
ルクスの血。
大量だった。
あれだけ出血して。
まだ生きている。
先輩は化け物だな。
そんなことを思った。
だが少し違う。
化け物なら。
もっと簡単に自分を殺していた。
もっと簡単に街を潰していた。
最後に見たルクスは。
ただ疲れていた。
壊れそうだった。
それが頭から離れない。
輸送車は基地へ到着した。
巨大な地下施設。
今やセートラス軍の重要拠点。
ルクスはすぐに運ばれていく。
「回転能力者を確保したぞ!」
「生きている!」
その言葉にざわめきが起きる。
幹部達が集まる。
皆同じ顔だった。
興味。
恐怖。
欲望。
「本当に捕まえたのか」
「ルクスを?」
「日本の切り札を?」
デミクロンは気分が悪くなった。
その視線。
人を見る目じゃなかった。
研究対象を見る目だった。
ルクスは手術室へ運ばれる。
緊急処置。
輸血。
縫合。
切断面の固定。
数時間。
ずっと続いた。
そして。
翌日。
医師が報告する。
「生存しました」
歓声が上がった。
まるで戦争に勝ったかのようだった。
だがデミクロンだけは笑えなかった。
数日後。
ルクスは目を開けた。
白い天井。
見知らぬ部屋。
身体が重い。
何も分からない。
起き上がろうとした。
動かない。
右腕。
無い。
左足。
無い。
そこでようやく思い出す。
デミクロン。
ドラゴン。
戦場。
激痛。
ルクスは黙った。
驚きもしない。
叫びもしない。
ただ。
天井を見た。
数秒後。
小さく呟く。
「生きてんのか」
生きていた。
最悪だった。
死ねなかった。
ガチャ。
扉が開く。
デミクロンだった。
ルクスを見る。
ルクスも見る。
しばらく沈黙。
そして。
ルクスが言った。
「助けたのか」
デミクロンは答えない。
「……」
「助けたのか」
もう一度。
デミクロンは目を逸らした。
「そうです」
ルクスは笑った。
乾いた笑い。
「余計なことしやがって」
デミクロンは怒るかと思った。
だが怒れなかった。
ルクスは続ける。
「俺はもう疲れたんだよ」
その声は小さかった。
デミクロンは初めて聞いた。
弱音だった。
本当の弱音。
ルクスは天井を見たまま言う。
「逃げたかった」
「全部」
「もう嫌だった」
デミクロンは何も言えない。
言葉が見つからない。
ルクスは目を閉じる。
「なのに生きてる」
「最悪だ」
その言葉だけが部屋に残った。
だが。
扉の向こうでは別の話が進んでいた。
幹部達。
研究者達。
軍上層部。
彼らは会議をしていた。
机の上には資料。
ルクスの能力記録。
回転能力の観測結果。
そして。
ある計画書。
一人の研究者が言った。
「能力の再現は可能です」
「解剖すれば」
部屋が静かになる。
誰も反対しない。
「回転能力を機械化できれば戦争は終わる」
「セートラスが勝つ」
幹部達は頷く。
決定だった。
ルクスはまだ知らない。
自分が生かされた理由を。
彼らは英雄として助けたのではない。
兵器として生かしたのだ。
そしてその夜。
基地の奥で。
解剖計画が正式に承認された。
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