「それでも」
死ぬ。
ルクスはそう思った。
頭上ではドラゴンが口を開いている。
巨大な牙。
鋭い爪。
血の臭い。
全部が近い。
あまりにも近い。
右腕が無い。
左足が無い。
身体は冷たい。
視界は暗い。
耳も聞こえづらい。
なのに痛みだけは消えない。
肩が痛い。
足が痛い。
無いはずの足まで痛い。
「あ……」
息が漏れる。
もう立てない。
戦えない。
逃げられない。
終わりだった。
ドラゴンが噛みつこうとする。
その瞬間。
ドォォォォォン!!
地面が爆発した。
ドラゴンが吹き飛ぶ。
「なに!?」
デミクロンが顔を上げる。
レグルスだった。
「そこまでだァァァァァ!!」
怒号。
レグルスが飛び込んできた。
両手を叩き合わせる。
能力発動。
周囲の瓦礫同士が結合する。
巨大な壁になる。
ドラゴンが激突する。
轟音。
だが。
止まらない。
ドラゴンは壁を食い破った。
バキバキと音を立てながら。
「くそっ!」
レグルスが歯を食いしばる。
分かっていた。
勝てない。
今の自分では勝てない。
それでも。
それでも行かなければならない。
レグルスはルクスの前へ立った。
「レグ……ルス……」
ルクスの声は弱い。
レグルスは振り返らない。
「喋るな」
短く言う。
「死ぬぞ」
ルクスは笑いそうになった。
もう十分死にそうだった。
デミクロンはレグルスを見る。
「どいてください」
「断る」
即答だった。
「ルクスは渡さない」
「先輩は僕が殺します」
「なら俺がお前を止める」
二人の視線がぶつかる。
ドラゴンが唸る。
空気が震える。
その間にも。
ルクスの血は流れ続けていた。
止まらない。
全然止まらない。
ドクがようやく飛び出した。
「ルクス!」
膝をつく。
肩の傷を見る。
顔色が真っ青になる。
酷い。
酷すぎる。
血が止まらない。
「ルクス!」
「ドク……」
「喋らないで!」
ドクの声が震える。
泣いていた。
ルクスはぼんやり見ていた。
ドクの顔。
久しぶりに近くで見る気がした。
戦争から帰ってきて。
少しずつ元に戻れて。
ようやくまた笑えるようになったのに。
「ごめん」
思わず言う。
ドクが首を振る。
「謝らないで」
涙が落ちる。
「お願いだから」
「死なないで」
ルクスは答えられない。
自分でも分からなかった。
生きられるのか。
もう。
無理な気がした。
身体が重い。
眠い。
すごく眠い。
その時だった。
ドラゴンが再び動く。
レグルスが迎え撃つ。
ドォォォォォン!!
衝撃。
レグルスが吹き飛ぶ。
地面を何度も転がる。
強い。
強すぎる。
デミクロンは泣いていた。
怒りながら。
苦しみながら。
それでも止まらない。
「なんでだよ!!」
叫ぶ。
「なんでなんだよ先輩!!」
ドラゴンが暴れる。
建物が崩れる。
地面が裂ける。
「俺は!」
「俺は尊敬してたんだぞ!!」
悲鳴みたいな声だった。
ルクスは目を閉じる。
何も返せない。
資格が無いと思った。
デミクロンの怒りも。
悲しみも。
全部当然だと思った。
だから余計に苦しかった。
その時。
ドラゴンが再びルクスへ向いた。
ドクの顔から血の気が引く。
レグルスも立ち上がれない。
間に合わない。
誰も間に合わない。
ドラゴンが口を開く。
ルクスは見上げる。
不思議と怖くなかった。
ただ。
一つだけ心残りがあった。
ドクにちゃんと言えなかったこと。
それだけだった。
ドラゴンが飛び出す。
デミクロンも止めない。
もう終わる。
誰もがそう思った。
だが。
その瞬間だった。
ルクスの周囲に。
小さな回転が生まれた。
弱い。
本当に弱い。
今にも消えそうな回転。
それでも。
確かに生まれた。
ルクス自身も驚く。
「なんで……」
もう動けないはずだった。
なのに。
身体が勝手に動いた。
生きたい。
その感情だけが。
消えていなかった。
面白ければブックマーク評価お願いします




