表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/156

「それでも」


死ぬ。


ルクスはそう思った。


頭上ではドラゴンが口を開いている。


巨大な牙。


鋭い爪。


血の臭い。


全部が近い。


あまりにも近い。


右腕が無い。


左足が無い。


身体は冷たい。


視界は暗い。


耳も聞こえづらい。


なのに痛みだけは消えない。


肩が痛い。


足が痛い。


無いはずの足まで痛い。


「あ……」


息が漏れる。


もう立てない。


戦えない。


逃げられない。


終わりだった。


ドラゴンが噛みつこうとする。


その瞬間。


ドォォォォォン!!


地面が爆発した。


ドラゴンが吹き飛ぶ。


「なに!?」


デミクロンが顔を上げる。


レグルスだった。


「そこまでだァァァァァ!!」


怒号。


レグルスが飛び込んできた。


両手を叩き合わせる。


能力発動。


周囲の瓦礫同士が結合する。


巨大な壁になる。


ドラゴンが激突する。


轟音。


だが。


止まらない。


ドラゴンは壁を食い破った。


バキバキと音を立てながら。


「くそっ!」


レグルスが歯を食いしばる。


分かっていた。


勝てない。


今の自分では勝てない。


それでも。


それでも行かなければならない。


レグルスはルクスの前へ立った。


「レグ……ルス……」


ルクスの声は弱い。


レグルスは振り返らない。


「喋るな」


短く言う。


「死ぬぞ」


ルクスは笑いそうになった。


もう十分死にそうだった。


デミクロンはレグルスを見る。


「どいてください」


「断る」


即答だった。


「ルクスは渡さない」


「先輩は僕が殺します」


「なら俺がお前を止める」


二人の視線がぶつかる。


ドラゴンが唸る。


空気が震える。


その間にも。


ルクスの血は流れ続けていた。


止まらない。


全然止まらない。


ドクがようやく飛び出した。


「ルクス!」


膝をつく。


肩の傷を見る。


顔色が真っ青になる。


酷い。


酷すぎる。


血が止まらない。


「ルクス!」


「ドク……」


「喋らないで!」


ドクの声が震える。


泣いていた。


ルクスはぼんやり見ていた。


ドクの顔。


久しぶりに近くで見る気がした。


戦争から帰ってきて。


少しずつ元に戻れて。


ようやくまた笑えるようになったのに。


「ごめん」


思わず言う。


ドクが首を振る。


「謝らないで」


涙が落ちる。


「お願いだから」


「死なないで」


ルクスは答えられない。


自分でも分からなかった。


生きられるのか。


もう。


無理な気がした。


身体が重い。


眠い。


すごく眠い。


その時だった。


ドラゴンが再び動く。


レグルスが迎え撃つ。


ドォォォォォン!!


衝撃。


レグルスが吹き飛ぶ。


地面を何度も転がる。


強い。


強すぎる。


デミクロンは泣いていた。


怒りながら。


苦しみながら。


それでも止まらない。


「なんでだよ!!」


叫ぶ。


「なんでなんだよ先輩!!」


ドラゴンが暴れる。


建物が崩れる。


地面が裂ける。


「俺は!」


「俺は尊敬してたんだぞ!!」


悲鳴みたいな声だった。


ルクスは目を閉じる。


何も返せない。


資格が無いと思った。


デミクロンの怒りも。


悲しみも。


全部当然だと思った。


だから余計に苦しかった。


その時。


ドラゴンが再びルクスへ向いた。


ドクの顔から血の気が引く。


レグルスも立ち上がれない。


間に合わない。


誰も間に合わない。


ドラゴンが口を開く。


ルクスは見上げる。


不思議と怖くなかった。


ただ。


一つだけ心残りがあった。


ドクにちゃんと言えなかったこと。


それだけだった。


ドラゴンが飛び出す。


デミクロンも止めない。


もう終わる。


誰もがそう思った。


だが。


その瞬間だった。


ルクスの周囲に。


小さな回転が生まれた。


弱い。


本当に弱い。


今にも消えそうな回転。


それでも。


確かに生まれた。


ルクス自身も驚く。


「なんで……」


もう動けないはずだった。


なのに。


身体が勝手に動いた。


生きたい。


その感情だけが。


消えていなかった。

面白ければブックマーク評価お願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ