「二本目」
ドラゴンが地面を蹴った。
ドォン。
ただそれだけで地面が陥没する。
ルクスは動けなかった。
右肩から血が流れ続けている。
視界が揺れる。
耳鳴りがする。
身体が寒い。
なのに汗は止まらない。
「はぁ……はぁ……」
呼吸するだけで苦しい。
立っているだけで苦しい。
それでも倒れれば終わる。
そんな予感だけはあった。
ドラゴンが迫る。
速い。
だが今のルクスには速いとか遅いとかそんな問題じゃなかった。
身体が動かない。
回転を発動しようとする。
だが集中できない。
痛みが全部を壊していた。
「動け……」
右腕があれば。
そう思った。
だが無い。
もう無い。
二度と戻らない。
その現実が心を削る。
ドラゴンの顎が迫る。
ルクスは回転を放った。
だが弱い。
明らかに弱い。
ドラゴンは無理矢理突破した。
「ッ!!」
ルクスは飛び退こうとする。
足がもつれる。
転ぶ。
その瞬間。
ドラゴンの牙が左足へ食い込んだ。
ガブッ。
嫌な音。
肉が潰れる。
骨が砕ける。
そして。
痛み。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
絶叫。
本当に足が食われた。
牙が膝近くまで沈んでいる。
骨を噛み砕く音が聞こえる。
ミシミシ。
バキ。
ゴリ。
生々しい音。
ルクスは地面を掻く。
逃げたい。
離れたい。
だが離れない。
ドラゴンは噛んだまま首を持ち上げた。
ルクスの身体が宙に浮く。
「やめろ……」
声にならない。
涙が出る。
みっともなくてもいい。
助けてほしかった。
痛かった。
苦しかった。
怖かった。
ドラゴンが首を振る。
ブン。
ルクスの身体が振り回される。
肩の傷がさらに開く。
血が飛ぶ。
景色が回る。
空。
地面。
空。
地面。
何が上で何が下か分からない。
そして。
ブチッ。
何かが切れた。
次の瞬間。
ルクスの身体だけが飛んでいた。
左足は。
ドラゴンの口の中だった。
静寂。
一瞬。
ルクスは理解できなかった。
地面へ落ちる。
ゴロゴロ転がる。
止まる。
視線を下へ向ける。
左足が無い。
膝から下が無い。
血が噴き出している。
大量に。
大量に。
大量に。
「あ……」
声が漏れる。
その後。
激痛。
「ああああああああああああああああああああ!!!!」
喉が潰れるほど叫ぶ。
地面を転がる。
痛い。
痛い。
痛い。
痛い。
右腕が無い。
左足が無い。
意味が分からない。
頭が理解を拒否する。
「いやだ……」
ルクスが呟く。
「いやだ……」
誰にも聞こえない声だった。
デミクロンは見ていた。
拳を握り締めながら。
胸が苦しい。
だが止まれない。
止まったら。
家族が浮かぶ。
街が浮かぶ。
死んだ人達が浮かぶ。
だから止まれない。
「先輩」
声が震えている。
ルクスは返事できない。
涙と血で顔がぐちゃぐちゃだった。
「なんで」
デミクロンも苦しそうだった。
「なんであんなことしたんですか」
ルクスは答えられない。
答える余裕が無い。
痛みだけで精一杯だった。
レグルスは歯を食いしばる。
止めたい。
だが止められない。
助けたい。
だが助けられない。
今飛び込んでもドラゴンに殺される。
ルクスにも届かない。
どうにもならない。
その現実がレグルスを苦しめる。
ドクは震えていた。
涙が止まらない。
「ルクス……」
名前を呼ぶ。
だが届かない。
ルクスは地面に倒れたままだ。
血溜まりが広がる。
どんどん広がる。
赤い。
あまりにも赤い。
このままでは死ぬ。
誰が見ても分かった。
ルクス自身も分かっていた。
だが。
まだ終わらなかった。
ドラゴンが近付く。
ゆっくり。
ゆっくり。
まるで獲物をいたぶるように。
デミクロンは目を閉じた。
そして静かに言う。
「あと少しです」
ルクスの身体が震える。
痛みか。
恐怖か。
もう本人にも分からなかった。
ドラゴンはルクスの頭上で口を開く。
巨大な牙が並ぶ。
ルクスは見上げることしかできなかった。
逃げられない。
戦えない。
助けも来ない。
ただ死が近付いてくる。
それだけだった。
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