「一本目」
空気が張り詰める。
誰も動かない。
デミクロンの後ろでは二本のドラゴンが唸っていた。
ルクスは構える。
回転を全身に纏う。
戦争で何度もやった。
何百回もやった。
だが。
目の前にいるのがデミクロンだと思うと身体が重かった。
「先輩」
デミクロンが呼ぶ。
「なんだ」
「避けてくださいね」
次の瞬間だった。
ジュゴォォォォォォン!!
ドラゴンの首が消えた。
速すぎた。
ルクスの視界から完全に消えた。
「ッ!?」
横から衝撃。
ドゴォォォォォン!!
ルクスの身体が吹き飛ぶ。
建物の壁へ叩きつけられた。
肺の空気が全部吐き出される。
「がっ……!」
呼吸ができない。
痛みより先に息ができなかった。
地面へ落ちる。
だが休む暇はない。
二本目。
ドラゴンの顎が迫る。
ルクスは反射的に回転を集中させた。
ギャリギャリギャリギャリ!!
火花が散る。
防げた。
そう思った。
だが。
ドラゴンの力が強すぎた。
防御ごと押し込まれる。
腕が軋む。
骨が悲鳴を上げる。
「ぐっ……!」
「先輩」
デミクロンは歩いてくる。
「弱くなりました?」
その言葉が胸に刺さる。
違う。
弱くなったんじゃない。
迷っているだけだ。
ルクスは立ち上がる。
血が口から流れる。
ドラゴンは再び構えた。
「来い」
ルクスが言う。
デミクロンは少し悲しそうな顔をした。
「本当に」
「なんであんなことしたんですか」
そして。
ドラゴンが飛ぶ。
今度は正面。
ルクスは回転を放つ。
巨大な渦。
地面が捲れる。
木々が吹き飛ぶ。
ドラゴンと衝突する。
ドォォォォォン!!
爆発のような衝撃。
土煙が舞う。
周囲の隊員達も吹き飛ばされる。
だが。
煙の中からドラゴンが出てきた。
無傷だった。
「なっ……」
ルクスの顔が強張る。
その隙。
一瞬だった。
ドラゴンが腕へ噛みつく。
ガブッ。
嫌な音がした。
ルクスは何が起きたか分からなかった。
ドラゴンはそのまま首を振る。
ブチブチブチッ!!
肉が裂ける。
骨が砕ける。
血が噴き出す。
そして。
右腕が肩から千切れ飛んだ。
一瞬だった。
静寂。
ルクスは呆然とする。
自分の右肩を見る。
無い。
腕が無い。
血だけが噴き出している。
理解が追いつかない。
数秒後。
激痛が来た。
「ああああああああああああああああああ!!!!」
絶叫。
膝をつく。
地面が血で染まる。
肩の断面から血が噴き出す。
止まらない。
止まらない。
止まらない。
「あがっ……!!」
「あああああ!!」
呼吸が乱れる。
視界が白くなる。
痛い。
痛い。
痛い。
痛い。
ルクスは地面を殴ろうとする。
だが腕が無い。
右腕が無い。
その事実がさらに痛みを強くする。
「先輩」
デミクロンの声。
ルクスは顔を上げる。
涙で滲む。
汗で滲む。
血で滲む。
何も見えない。
「まだ一本目です」
その言葉に周囲が凍り付く。
ドクの顔から血の気が引く。
「ルクス!!」
叫ぶ。
駆け出そうとする。
だがレグルスが止めた。
「行くな!!」
「でも!!」
「今行ったらお前も死ぬ!!」
レグルス自身も拳を握り潰しそうなほど力を入れていた。
助けたい。
だが入れない。
デミクロンが強すぎる。
ルクスは肩を押さえる。
血が指の隙間から溢れる。
止まらない。
止まる気配がない。
「はぁ……はぁ……」
呼吸も苦しい。
意識が遠のく。
だが。
デミクロンは終わらない。
ドラゴンが再び唸る。
二本とも。
今度は足を見ていた。
ルクスはそれに気付く。
嫌な予感がした。
本能が叫ぶ。
逃げろと。
だが身体が動かない。
血を失い過ぎている。
立つだけで精一杯だった。
デミクロンは静かに言った。
「次は」
「足です」
ドラゴンが地面を蹴った。
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