「復讐者」
誰も動かなかった。
丘の上に立つデミクロン。
その姿を見たルクスは言葉を失っていた。
一か月前まで同じ戦場にいた。
同じ塹壕にいた。
同じ飯を食った。
その後輩が今は敵として立っている。
「久しぶりですね」
デミクロンがもう一度言った。
「先輩」
ルクスは唇を噛む。
レグルスが前へ出た。
「ルクス、知り合いか」
「……ああ」
短い返事だった。
ドクも不安そうな顔でルクスを見る。
デミクロンは丘を降り始めた。
武器は持っていない。
だが危険だと誰もが分かる。
歩くたびに地面が小さく震える。
「止まれ」
レグルスが警告する。
デミクロンは止まらない。
「僕は先輩に用があるんです」
「それ以上近付くな」
「嫌です」
即答だった。
空気が張り詰める。
隊員達が武器を構える。
だがデミクロンは気にも留めない。
まっすぐルクスだけを見ていた。
「先輩」
「……なんだ」
「覚えてますか」
ルクスは黙る。
「塹壕で話したこと」
「家族の話」
「将来の話」
「戦争が終わったら何したいかって話」
デミクロンは笑った。
乾いた笑いだった。
「全部嘘だったんですね」
ルクスは何も言えない。
デミクロンの拳が震えている。
怒りだった。
ずっと抑えてきた怒り。
「街が消えました」
「家族も死にました」
「友達も死にました」
「みんな死にました」
一歩。
また一歩。
デミクロンが近付く。
「先輩は見てたんですよね」
「全部」
ルクスは目を閉じる。
見ていた。
見ていたからこそ忘れられない。
「答えてくださいよ」
「先輩」
静寂。
風だけが吹く。
そしてルクスはゆっくり口を開いた。
「……見てた」
デミクロンの肩が震える。
「そうですか」
「じゃあ」
「知ってますよね」
デミクロンの声が低くなる。
「俺達がどれだけ苦しんだか」
「知ってますよね」
ルクスは頷く。
「知ってる」
「だったらなんでだ!!」
叫びだった。
地面が震える。
周囲の隊員達が身構える。
デミクロンの感情が爆発した。
「なんであんなことしたんですか!!」
「なんで俺達を利用したんですか!!」
「なんで最後まで言わなかったんですか!!」
ルクスは黙る。
答えられない。
何を言っても言い訳になる。
デミクロンは拳を握る。
血が出るほど強く。
「俺は」
「先輩を尊敬してたんですよ」
その言葉にルクスの胸が痛む。
「本当に」
「本当に尊敬してたんです」
隊員達は静かに聞いていた。
誰も口を挟まない。
デミクロンの怒りが本物だと分かるからだ。
「なのに」
「全部壊れた」
「全部です」
そして。
デミクロンはゆっくり顔を上げた。
その瞳には涙が浮かんでいた。
だが憎しみも消えていない。
「だから」
「殺しに来ました」
その瞬間だった。
ゴォォォォォォォ!!
空気が唸る。
デミクロンの背後に黒い影が現れる。
巨大な首。
一本。
そしてもう一本。
二本のドラゴンが姿を現した。
隊員達が息を呑む。
「能力者か!」
「まずい!」
ドラゴンは空へ向かって咆哮した。
ゴアァァァァァァァ!!
衝撃波が周囲へ広がる。
建物の窓が割れる。
地面が震える。
ドクが思わず後退る。
レグルスは前へ出た。
「ルクス」
「……分かってる」
ルクスも前へ出る。
デミクロンと向き合う。
かつての後輩。
今は敵。
デミクロンは静かに言った。
「先輩」
「今日で終わりにしましょう」
ドラゴンの目がルクスを捉える。
ルクスも回転を発動する。
地面に小さな渦が生まれる。
戦いが始まる。
誰も止められない。
そしてデミクロンは言った。
「まずは腕一本」
その言葉にルクスの背筋を冷たいものが走った。
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