「来訪者」
戦争は終わっていなかった。
日本軍とセートラス軍は今も前線で戦い続けている。
毎日のように死者が出る。
毎日のように街が焼ける。
その現実だけは変わらなかった。
ルクス達は日本にいた。
前線ではない。
だが安全でもない。
いつ何が起きてもおかしくない状況だった。
朝。
ルクスは訓練場で能力訓練を終えていた。
回転を解除する。
汗が地面に落ちる。
「はぁ……」
疲れていた。
身体ではない。
心が。
セートラスでの五年間。
ブイゼンとの再会。
そして別れ。
全部がまだ頭から離れない。
「ルクス」
声が聞こえた。
振り向く。
ドクだった。
紫色の髪が風で揺れている。
それだけで少しだけ気持ちが軽くなる。
「終わった?」
「ああ」
「ご飯行こ」
「おう」
二人は並んで歩く。
昔みたいに顔を真っ赤にして逃げたりはしなくなった。
少しだけ。
本当に少しだけ大人になった。
食堂へ向かう途中だった。
ルクスはふと空を見上げる。
青空だった。
戦争中とは思えないほど綺麗だった。
「平和だな」
思わず呟く。
ドクは首を横に振った。
「平和じゃないよ」
ルクスは黙る。
確かにそうだった。
前線では今も誰かが死んでいる。
自分達がこうして歩いている間にも。
その時だった。
基地全体に警報が鳴り響く。
ウゥゥゥゥゥゥゥン!!
赤い警告灯が点灯する。
食堂へ向かっていた隊員達が一斉に立ち止まった。
ルクスもドクも顔を上げる。
「敵襲!?」
誰かが叫ぶ。
放送が流れた。
『正体不明の飛行物体接近!全隊員配置につけ!』
空気が変わる。
ルクスの表情から緩みが消えた。
「ドク」
「うん」
二人は走り出す。
基地内が騒然としていた。
隊員達が武器を持って走る。
レグルスも指示を飛ばしている。
「落ち着け!!」
「まだ敵と決まったわけじゃない!!」
「配置につけ!!」
その声で少しだけ混乱が収まる。
ルクスは外へ出た。
空を見上げる。
黒い点。
確かに何かが飛んでいる。
しかも。
こちらへ向かってきている。
「なんだあれ……」
誰かが呟いた。
点が大きくなる。
どんどん近付いてくる。
速い。
異常なほど速い。
そして。
ゴォォォォォォォ!!
大気が震えた。
音が遅れて届く。
隊員達が耳を塞ぐ。
「隕石か!?」
「違う!」
「何かいるぞ!!」
ルクスも目を凝らす。
人影だった。
誰かが飛んでいる。
人間。
いや。
人型の何か。
そして。
ドォォォォォォン!!
基地から少し離れた荒野へ着地した。
地面が吹き飛ぶ。
砂煙が空へ舞い上がる。
隊員達が武器を構える。
ルクスも身構えた。
レグルスが前へ出る。
「警戒しろ」
誰も動かない。
砂煙がゆっくり晴れていく。
その中に立っていたのは一人の少年だった。
見たことのない服。
見たことのない装備。
そして。
見たことのない雰囲気。
ルクスは眉をひそめる。
どこかで見た気がする。
だが思い出せない。
少年は周囲を見渡した。
そして。
一言だけ呟く。
「間に合ったか」
誰も意味が分からない。
隊員達がざわつく。
その時だった。
基地の監視員が血相を変えて飛び出してきた。
「大変です!!」
「何だ!?」
レグルスが叫ぶ。
監視員は震える声で答えた。
「セートラス軍です!!」
空気が凍る。
「何だと」
「大規模侵攻を確認!!」
「艦隊が日本へ接近中です!!」
周囲が騒然となる。
ルクスの顔色が変わった。
日本。
ついに。
戦場がここまで来た。
監視員は続ける。
「さらに先行部隊を確認!!」
「先頭は一人です!!」
その言葉を聞いた瞬間。
ルクスの胸が嫌な音を立てた。
まさか。
そんなはずはない。
だが。
あり得る。
十分あり得る。
そして。
基地の正面。
遠くの丘の上。
一人の少年が立っていた。
風が吹く。
少年の髪が揺れる。
その姿を見た瞬間。
ルクスは息を呑んだ。
「……デミクロン」
その名前が自然と口から漏れた。
丘の上の少年もこちらを見ていた。
そして。
静かに笑う。
それはルクスが知っている笑顔ではなかった。
「久しぶりですね」
風に乗って声が届く。
「先輩」
デミクロンだった。
セートラス軍最先鋒。
かつての後輩。
そして。
家族と街の仇を討つために来た復讐者だった。
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