「最後の別れ」
ドクとルクスは空挺の通路を歩いていた。
五年ぶりだった。
話したいことは山ほどある。
だが何から話せばいいのか分からない。
結局二人とも黙ったままだった。
それでも不思議と嫌な沈黙ではなかった。
ルクスはふと後ろを振り返る。
収容室の方向だった。
「どうしたの?」
ドクが聞く。
「いや」
ルクスは首を振る。
「なんでもない」
胸騒ぎがした。
理由は分からない。
だが嫌な予感がした。
それでもルクスは歩き続けた。
一方その頃。
収容室ではルシカが入ってきていた。
ブイゼンは椅子に座ったまま笑う。
「来たか」
ルシカは何も言わない。
静かに扉を閉めた。
「君が捕虜ということは」
ルシカが口を開く。
「何をされるかは分かっているね」
ブイゼンは頷いた。
「まあな」
沈黙。
重い沈黙だった。
ルシカは俯く。
拳を握る。
だが命令だった。
戦争だった。
情報を聞き出さなければならない。
「すまない」
小さく呟く。
「本当にすまない」
ブイゼンは笑った。
「謝るくらいならやめろ」
「できない」
即答だった。
ルシカの声は震えていた。
「これが私の仕事だ」
ブイゼンは目を閉じる。
少しだけ。
本当に少しだけ。
ルクスの顔を思い出した。
幼い頃の顔。
問題ばかり起こしていた頃の顔。
そしてさっきの顔。
泣いていた顔。
「立派になったな」
誰にも聞こえない声だった。
ルシカは機械を起動する。
そして。
収容室から悲鳴が響いた。
ルクスには聞こえない。
ドクにも聞こえない。
空挺の奥深く。
誰にも届かない場所で。
ブイゼンは苦しみ続けた。
それでも最後まで。
息子の情報だけは話さなかった。
数時間後。
静寂が訪れる。
ルシカは一人だった。
床には血が落ちている。
ブイゼンは動かない。
ルシカは震える手で拳銃を取り出した。
「これで何人目だろうな」
誰も答えない。
「私は死をなくしたかった」
「なのに」
「私が死を作っている」
涙が零れる。
ルシカは笑った。
乾いた笑いだった。
そして。
銃口を自分へ向ける。
引き金を引いた。
パンッ。
乾いた音が響く。
ルシカの身体が崩れ落ちた。
収容室は静かだった。
同じ頃。
ルクスはドクと食堂で向かい合っていた。
久しぶりの食事だった。
ドクは少し笑う。
「ちゃんと食べて」
「子供じゃないぞ」
「知ってる」
そんな何気ない会話。
ルクスはまた後ろを振り返る。
嫌な予感は消えなかった。
だが。
まだ知らない。
父との最後の時間が終わったことも。
ルシカが死んだことも。
まだ何一つ知らなかった。
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