「裏切り者」
デミクロンは塔へ向かって走った。階段を駆け上がる。息が切れる。それでも止まらない。街は今も回転している。家が崩れ、人々が逃げ惑い、兵士達が何が起きているのかも分からず叫んでいた。
塔の頂上へ辿り着いた時、ルクスはまだそこにいた。風が長い髪を揺らしている。五年前、自分達と笑っていたルグシカスの面影は残っていた。だがその目だけは違った。あまりにも冷たかった。
「あなたが……ルクスですか」
ルクスは振り返る。
「ああ」
「日本を守った英雄の」
「ああ」
「なんでこんなことしたんですか!」
デミクロンは叫んだ。街を指差す。回転に巻き込まれた人々を指差す。ルクスはしばらく黙っていた。そして小さく言った。
「任務だからだ」
それだけだった。
デミクロンは震えた。
「それだけですか」
「それだけだ」
「五年間一緒だったじゃないですか!」
ルクスは何も言わない。
「先輩って呼んでたんですよ!」
「知ってる」
「だったら!」
デミクロンは拳を握る。殴りたかった。だが出来なかった。目の前の男がどれだけ強いか知っていたからだ。
ルクスは街を見る。
「デミクロン」
「なんですか」
「君はいい子だ」
その言葉にデミクロンは固まる。
「俺が殺してきた奴らもきっといい人だったんだろうな」
初めてルクスの声が揺れた。
「俺はどうしたら良かったんだ」
デミクロンは息を呑む。
ルクスの頬を涙が流れた。
「俺はどうすれば良かったんだ!!」
叫びが夜空に響く。
五年間押し殺していた感情だった。
「俺は誰を守れば良かったんだ!」
「俺は誰の味方をすれば良かったんだ!」
デミクロンは何も言えなかった。
ルクスは続ける。
「全部話したらどうにかなったのか!」
「正体を明かしたら戦争は終わったのか!」
「俺は何をすれば良かったんだ!!」
デミクロンの口が開く。
だが言葉が出ない。
答えを持っていなかった。
ルクスも答えを持っていなかった。
二人とも分からなかった。
だから戦争は続いている。
デミクロンは俯いた。
そして小さく言う。
「裏切り者」
ルクスは目を閉じた。
否定しなかった。
やがてルクスは回転した瓦礫を足場にして空へ飛ぶ。上空には日本軍の空挺部隊が待機していた。
デミクロンはその背中を見送る。
追わなかった。
追えなかった。
ルクスも振り返らなかった。
ただ一度だけ目を閉じる。
そして空挺へ向かって飛んでいった。
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