「塔の上」
その夜、デミクロンは眠れなかった。兵士達の寝息が響く宿舎の中で一人だけ天井を見つめていた。手にはルグシカスのバンダナが握られている。
「先輩……」
呟いても返事はない。死んだのだ。当たり前だった。だが認めたくなかった。
その時だった。
バンダナがふわりと浮いた。
「え?」
デミクロンが目を見開く。
バンダナがゆっくり回転していた。
最初は小さく。
そして徐々に速く。
床の砂が巻き上がる。
机が揺れる。
椅子が動く。
「なんだ……?」
次の瞬間だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ―――!!
地面が揺れた。
外から悲鳴が聞こえる。
デミクロンは飛び起きて外へ出た。
そして絶句した。
街が回転していた。
家が。
道路が。
広場が。
巨大な渦に巻き込まれるように回転している。
人々が逃げ惑う。
兵士達が叫ぶ。
建物が砕ける。
まるで街そのものが巨大な螺旋へ変わっていくようだった。
「なんだよ……これ……」
デミクロンは震えた。
こんな能力を知っている。
一人だけ。
戦場で死んだはずの男。
デミクロンは塔を見た。
街の中心にある高い塔。
その頂上。
月明かりに照らされた人影が立っていた。
長く伸びた髪。
見慣れた軍服。
そして冷たい目。
ルグシカスではない。
ルクスだった。
ルクスは街を見下ろしていた。
人々の悲鳴を聞いても表情は変わらない。
ただ静かに通信機を握る。
「目標地点確認」
「軍事施設の位置も確認した」
「これより情報を送信する」
淡々とした声だった。
感情が感じられない。
街の位置。
兵器の位置。
兵士達の数。
全てが送られていく。
五年間。
ルクスはセートラスで生きていた。
スパイとして。
誰にも知られず。
誰にも気付かれず。
そして今。
任務を終えようとしていた。
デミクロンは拳を握る。
信じたくなかった。
けれど現実だった。
「先輩……」
ルクスは遠くを見る。
街ではなく。
もっと遠く。
まるで自分でも見失った何かを探すように。
その横顔は。
勝者の顔ではなかった。
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