「死をなくす理由」
その日の夜。
ルクスは眠れなかった。
ルシカの言葉が頭から離れない。
「この世界から死をなくす」
そんなことを本気で言う人間を初めて見た。
翌日。
ルクスは一人でいたルシカを見つけた。
支部の屋上だった。
ルシカは空を見上げている。
「ルシカさん」
「どうした」
ルクスは少し迷った。
だが聞くことにした。
「なんで死をなくしたいんですか」
ルシカは黙った。
そして少し笑った。
「重い話だぞ」
「聞きたいです」
しばらく沈黙が続く。
やがてルシカは話し始めた。
「昔の俺はルカって名前だった」
ルクスは黙って聞く。
「俺は昔から考えていた」
「本当の死って何なんだろうってな」
寿命で死ぬこと。
病気で死ぬこと。
事故で死ぬこと。
戦争で死ぬこと。
それは本当に死なのか。
ルカはずっと考えていた。
だが答えは出なかった。
だから旅に出た。
宇宙を。
別宇宙を。
様々な世界を巡った。
そこで出会った文明は様々だった。
平和な世界。
争い続ける世界。
滅びかけた世界。
ルカはそれらを見続けた。
そしてある日。
カプ星という星へ辿り着いた。
そこは良い星だった。
少なくともそう見えた。
住民達は優しかった。
歓迎してくれた。
食事もくれた。
寝る場所もくれた。
ルカは久しぶりに安心して過ごせた。
だが。
数日後。
星は滅んだ。
あまりにも突然だった。
空が割れた。
大地が崩れた。
街が消えた。
人々が死んだ。
ルカは意味が分からなかった。
そして真実を知る。
カプ星は豊かな星ではなかった。
異星人。
差別された人々。
捕らえた人間。
そういった者達を拷問し。
その苦しみから生まれる負のエネルギーを利用して繁栄していた。
ルカは絶望した。
自分が笑っていた時も。
誰かが苦しんでいた。
自分が眠っていた時も。
誰かが泣いていた。
知らなかった。
本当に知らなかった。
そして反乱が起きた。
積み重なった憎しみが爆発した。
負のエネルギーが暴走する。
その結果。
星そのものが崩壊した。
ルカはただ見ていることしかできなかった。
その時だった。
行き場を失った負のエネルギーが。
一斉にルカへ流れ込んだ。
悲しみ。
怒り。
憎しみ。
絶望。
何億もの感情。
何億もの記憶。
全てが流れ込んでくる。
ルカは見た。
拷問される人々を。
助けを求める人々を。
死んでいく人々を。
何度も。
何度も。
何度も。
ルシカはそこで言葉を止めた。
しばらく空を見上げる。
そして静かに言った。
「もう見たくなかった」
「誰かが死ぬところを」
「誰かが苦しむところを」
ルクスは何も言えなかった。
ルシカの目は本気だった。
「だから決めた」
ルシカは続ける。
「この世界から死をなくす」
それは不可能かもしれない。
馬鹿げた理想かもしれない。
だがルシカは本気だった。
だからルクスは初めて思った。
この人は本当に。
命を大切にしているんだと。
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