「暴走」
平和は長く続かなかった。
それから数週間後。ルクス達は訓練を兼ねて山奥のキャンプ場へ来ていた。地球外生命体との戦闘訓練だけではなく、集団行動や野外活動も学ぶためだった。
ルクスは焚き火の前に座っていた。
「意外と悪くないな」
「何がだ?」
先輩の一人が聞く。
「ここですよ」
「飯もあるし、風呂もあるし」
「ハードル低すぎだろ」
周囲から笑いが起こる。
ルクスも少し笑った。
自分は先輩達と仲良くできている。
少なくともそう思っていた。
その時だった。
地面が揺れた。
最初は誰も気付かなかった。
だが揺れは徐々に大きくなる。
焚き火が揺れる。
木々が軋む。
「地震か?」
誰かが立ち上がる。
次の瞬間。
地面が螺旋状に捻れ始めた。
土が回る。
岩が回る。
木が回る。
まるで大地そのものが巨大な渦になったようだった。
「離れろ!」
先輩が叫ぶ。
全員が後退する。
そして全員が気付いた。
中心にいたのはルクスだった。
「え?」
ルクス自身も状況が分からない。
能力を使った覚えが無い。
止めようとする。
だが止まらない。
回転はどんどん強くなる。
先輩達の表情が変わる。
驚き。
警戒。
そして恐怖。
「やっぱり危険じゃねぇか!」
誰かが叫ぶ。
能力が飛ぶ。
刃が飛ぶ。
先輩達が攻撃してくる。
ルクスは目を見開いた。
「待ってください!」
回転が勝手に反応する。
攻撃が逸れる。
弾かれる。
それを見た先輩達はさらに警戒した。
「見ろよ!」
「暴走じゃ済まねぇだろ!」
「だから信用できなかったんだ!」
ルクスの胸が痛む。
怖かった。
能力も怖い。
先輩達も怖い。
だけど一番怖かったのは。
自分が何をしているのか分からないことだった。
「なんでですか!」
ルクスは叫ぶ。
「信用してたのに!」
すると先輩達も怒鳴った。
「先に裏切ったのはお前だろうが!」
「こんなの見せられて信じろっていうのか!」
ルクスは言葉を失う。
違う。
自分じゃない。
止めたい。
なのに能力が言うことを聞かない。
その時だった。
「全員止まれ」
静かな声が響く。
だが誰も逆らわなかった。
一人の男が歩いてくる。
黒髪。
鋭い目。
落ち着いた雰囲気。
ルクスは初めて見る顔だった。
男は回転する地面を見た。
そして先輩達を見る。
「これは能力の暴走だ」
先輩達は反発する。
「でも!」
「信用できません!」
男はため息をついた。
そして静かに言う。
「なら賭けよう」
全員が黙る。
男は続けた。
「俺の推測が間違っていたら死んでやる」
空気が凍る。
冗談ではない。
全員が分かった。
この男は本気だ。
先輩達は何も言えなくなる。
男はルクスへ近付く。
そして腰のポーチから奇妙な装置を取り出した。
装置が光る。
その瞬間。
暴走していた回転が少しずつ弱まっていく。
大地の螺旋が止まる。
木々の回転も止まる。
静寂が戻った。
ルクスは力が抜けるように膝をついた。
男が手を差し出す。
「大丈夫か」
ルクスは呆然としながら頷いた。
「あなたは……」
男は答える。
「ルシカだ」
それが。
ルクスとルシカの最初の出会いだった。
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