「大人」
ルクスはその場に座り込んでいた。
全身が痛い。呼吸をするだけでも苦しい。もう立ち上がる気力も残っていなかった。ドクが駆け寄ろうとするが、近くの隊員に止められていた。
その時だった。
レグルスが前へ出る。
「後は大人に任せろ」
そう言ってゼルクロノスの前に立った。
ゼルクロノスはレグルスを見る。
ルクスへの興味は消えていない。だが今は目の前の男を警戒していた。
レグルスはゆっくり首を鳴らす。
「新人いじめとは趣味が悪いな」
次の瞬間。
ゼルクロノスの周囲に雷が発生した。
数十本。
数百本。
先程ルクスへ放ったものより遥かに多い。
そして一斉に降り注ぐ。
だがレグルスは動かない。
雷が身体へ届く直前。
レグルスは能力を使った。
雷と自分を弾く。
雷はレグルスへ触れることなく逸れ、周囲へ散っていった。
ルクスは目を見開く。
「何だよあれ……」
隣の隊員が呟く。
「レグルスさんの能力だ」
「物質を結合するか弾く」
「それだけだ」
ルクスは思った。
いやそれだけじゃねぇだろと。
ゼルクロノスが動く。
巨大な腕が振り下ろされる。
レグルスは地面へ手を触れた。
瞬間。
地面とゼルクロノスの足が結合する。
ゼルクロノスの動きが止まった。
その隙にレグルスは距離を詰める。
拳を振るう。
ただの拳だった。
だが能力が乗る。
ゼルクロノスの身体を弾く。
轟音。
巨大な結晶の身体が吹き飛ぶ。
建物を何棟も貫通して止まった。
隊員達が静まり返る。
初めてだった。
ゼルクロノスが押された。
ルクスは思わず呟く。
「強すぎだろ……」
レグルスは聞こえていない。
ゼルクロノスを見ている。
ゼルクロノスも立ち上がった。
身体についた瓦礫を払い落とす。
そして。
少しだけ口元が動いた。
笑ったように見えた。
今度はゼルクロノスが突っ込む。
雷と暴風を纏いながら。
レグルスも迎え撃つ。
結合。
弾く。
結合。
弾く。
単純な能力だった。
だが使い方が異常だった。
雷を弾く。
暴風を弾く。
空気を結合する。
瓦礫を結合する。
戦場そのものを利用していた。
ルクスは理解した。
自分とレグルスは違う。
能力の強さじゃない。
経験が違う。
積み重ねてきたものが違う。
だからレグルスは前に立てるのだ。
その時。
ゼルクロノスの腕とレグルスの拳がぶつかった。
凄まじい衝撃が走る。
地面が割れる。
建物の窓ガラスが砕け散る。
そして両者は同時に距離を取った。
戦場が静まる。
誰も口を開かない。
今この場で戦えているのは。
レグルスだけだった。
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