「回転」
ゼルクロノスが一歩踏み出す。
その瞬間、地面が砕けた。
ルクスは思わず後退る。さっきまでとは明らかに違う。観察する目じゃない。本気で相手を見ている目だった。
「やばいだろ……」
ルクスは弱音を吐く。
逃げたい。
本当に逃げたい。
だが身体は動かなかった。
次の瞬間、ゼルクロノスが消える。
また高速移動だった。
ルクスは反応できない。
だが身体中の回転だけは勝手に動く。
右から来る。
そう感じた瞬間、回転が流れる。
拳が逸れる。
建物が吹き飛ぶ。
もし直撃していたら死んでいた。
ルクスは顔を青くした。
「無理だって……」
それが本音だった。
レグルスも前線で戦っている。
幹部達も能力を使っている。
だがゼルクロノスは止まらない。
雷が落ちる。
暴風が吹く。
隊員達が吹き飛ばされる。
その中でゼルクロノスは再びルクスを見る。
そして腕を伸ばした。
今度は雷ではなかった。
ただ掴もうとしただけ。
それだけなのに速い。
ルクスは必死に回転を使う。
身体を回す。
空気を回す。
地面を回す。
気付けば周囲に小さな渦が生まれていた。
ゼルクロノスの指先が逸れる。
掴めない。
ほんの少しだけ。
軌道がズレる。
レグルスはそれを見ていた。
「こいつ……」
驚いていた。
ルクスは知らない。
自分が何をしているのか。
だがレグルスには分かった。
回転を物体へ与えているだけじゃない。
周囲の流れそのものを回している。
そんな使い方を十五歳の少年が無意識でやっている。
異常だった。
その時。
ゼルクロノスが初めて空を見上げる。
そして巨大な雷雲がさらに膨れ上がった。
空が黒く染まる。
隊員達の顔色が変わる。
誰もが理解した。
さっきまでの攻撃は本気じゃなかった。
今からが本番だと。
ルクスは空を見る。
そして顔を引きつらせた。
「いや……」
「嘘だろ……」
頭上には。
街一つ消し飛ばせそうな雷が集まり始めていた。
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