第五章 織田家の継承宣言
安土城の大広間には、重臣たちが勢揃いしていた。
本能寺の変の報が届いてからというもの、城内は混乱と不安に満ちていたが、信忠の帰還によって空気は一変していた。
柴田勝家は、信忠の姿を見ると深く頭を下げた。
「信忠様……この度のご帰還、まことに天の助けにございます。
織田家はまだ終わっておりませぬ」
その声は震えていたが、そこには確かな希望があった。
丹羽長秀、滝川一益、前田利家、池田恒興――
父信長が育て上げた名だたる武将たちが、信忠の前に膝をついた。
信忠はゆっくりと歩み出て、広間の中央に立った。
その姿は、若き武将ではなく、天下を背負う者のそれだった。
「父上は討たれた。
だが、織田家はまだ死んでおらぬ。
我らがここにいる限り、天下は織田のものだ」
広間に静寂が落ちた。
誰もが信忠の次の言葉を待っていた。
信忠は深く息を吸い、堂々と宣言した。
「ここに、織田信忠が織田家当主を継ぐ。
父信長の遺志を継ぎ、天下を治める者となる。
光秀を討ち、天下静謐を成すのは、この信忠である」
その言葉は、雷鳴のように広間に響いた。
柴田勝家が立ち上がり、拳を握りしめた。
「信忠様! そのお言葉、まさに織田家の柱でございます!
我ら、命を賭してお支えいたします!」
丹羽長秀も続いた。
「殿、織田家の兵はまだ健在。
近江、美濃、尾張の兵を集めれば、光秀を討つに十分でございます!」
滝川一益が前へ進み出た。
「関東の兵も動かせます。
殿の御旗のもと、織田家は再び天下を揺るがしましょう!」
信忠は静かに頷いた。
「まずは兵を集める。
近江、美濃、尾張の諸将に急使を出せ。
安土へ兵を集結させよ。
街道を封鎖し、光秀の動きを探れ。
堺と国友には鉄砲と火薬の増産を命じる」
その指示は、信長のように鋭く、しかし信忠らしい冷静さを帯びていた。
重臣たちが散っていく中、前田利家が信忠に近づいた。
「殿……本能寺の変の報を聞いた時、我らは絶望いたしました。
しかし、殿が生きて戻られたことで、織田家は再び立ち上がれます」
信忠は利家の肩に手を置いた。
「利家……父上の天下は、私が必ず守る。
光秀を討ち、天下を取り戻す。
そのために、皆の力を貸してほしい」
利家は深く頷いた。
「殿……我らは命を賭してお支えいたします。
織田家の天下を、必ず取り戻しましょう」
その夜、安土城の天守に灯りがともった。
信忠は天守の最上階に立ち、遠く京の方角を見つめた。
まだ煙が上がっている。
父が討たれた炎の名残が、薄く空に漂っていた。
信忠は静かに呟いた。
「父上……私は織田家を継ぎました。
必ず光秀を討ち、天下を取り戻します。
そして、父上の夢を超える天下を築いてみせます」
その言葉は、夜風に乗って安土の町へ流れた。
町人たちはその夜、安土城の天守に灯る光を見て、
「織田家はまだ終わっていない」と噂した。
安土城は再び動き始めた。
織田家の反撃が、ここから本格的に始まる。




