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第十二章 鉄砲外交の始まり

堺の湊で南蛮貿易の改革を断行した翌日、信忠は国友の鍛冶場を訪れた。

山崎合戦の勝利から間もないというのに、国友の町はすでに活気を取り戻していた。

鉄を打つ音が響き、火花が散り、鍛冶たちの顔には疲労よりも誇りが浮かんでいる。


「殿、国友一同、信忠様の天下のために鉄砲を作り続けます!」


代表の鍛冶が深く頭を下げた。

信忠は鉄砲を手に取り、重さと精度を確かめた。


「……見事だ。

 だが、これからは国内だけでは足りぬ」


鍛冶たちは顔を上げた。


「足りぬ、とは……?」


信忠は静かに言った。


「検地と刀狩りを進めれば、国内の鉄砲需要は減る。

 戦が減れば、鉄砲の出番も減る。

 だが――鉄砲を作る技術は、世界に誇れるものだ」


鍛冶たちは息を呑んだ。


「殿……まさか……」


信忠は頷いた。


「鉄砲を海外へ売る。

 これからは、鉄砲を“外交の武器”とする」


鍛冶たちは驚き、そして次第に目を輝かせた。


「海外へ……日本の鉄砲を……?」


「そうだ。

 ポルトガル、スペイン、シャム、明、ルソン……

 世界の国々は鉄砲を求めている。

 日本製の鉄砲は、南蛮のものより精度が高い。

 ならば、我らが世界へ売り込むのだ」


信忠の声は、鍛冶場の熱気の中で鋼のように響いた。


その日のうちに、信忠は堺の豪商・今井宗久、茶屋四郎次郎、津田宗及を安土城へ呼び寄せた。

三人は南蛮貿易の中心人物であり、世界の商流を知る者たちだった。


「殿、鉄砲を海外へ……本気でお考えに?」


宗久が問う。

信忠は迷いなく頷いた。


「国内の戦は減る。

 だが、世界はまだ戦の時代だ。

 鉄砲を求める国は多い。

 日本製の鉄砲を売れば、我らは世界に影響力を持てる」


茶屋四郎次郎が興奮気味に言った。


「殿……それは、南蛮人の商売を逆に奪うことになりますぞ!」


「奪えばよい。

 日本が南蛮の支配を受けるのではなく、

 日本が南蛮世界へ進出するのだ」


宗及が深く頷いた。


「殿……鉄砲外交は、織田家の新しい力となりましょう」


信忠は地図を広げ、世界を指差した。


「堺と国友を中心に鉄砲を生産し、

 敦賀・博多・長崎から海外へ輸出する。

 鉄砲の流れを織田家が握れば、

 世界の戦の流れも握れる」


三人は息を呑んだ。


「殿……それは、まさに“世界を相手にする天下”にございますな」


信忠は静かに微笑んだ。


「父上の天下は日本の中にあった。

 だが、私の天下は日本の外にも広がる」


その後、信忠は国友と堺に命じた。


「鉄砲の規格を統一し、品質を揃えよ」

「輸出用の鉄砲は、織田家の刻印を入れよ」

「硝石と火薬の製法を秘匿し、海外へは絶対に漏らすな」


鍛冶たちは燃えるような熱意で応えた。


「殿の天下のため、国友は命を賭して鉄砲を作ります!」


「堺も全力で協力いたします!」


信忠は頷いた。


「これからは、鉄砲が日本を守り、世界へ押し出す。

 鉄砲外交は、織田幕府の柱となる」


その夜、安土城の天守から琵琶湖を見下ろしながら、信忠は静かに呟いた。


「父上……日本はもう、南蛮に怯える国ではありません。

 鉄砲を持ち、湊を整え、街道を繋ぎ、世界へ進む。

 これが、私の天下です」


湖面に映る月が揺れ、安土城の影が静かに伸びていた。


鉄砲外交――

それは、織田信忠が世界へ放つ最初の一手だった。




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