第十一章 南蛮貿易の改革
京の復興に着手した信忠は、次に“天下の根幹”へ手を伸ばした。
それは――南蛮貿易である。
本能寺の変の混乱の中、堺や長崎では南蛮船が勝手に荷を下ろし、
日本人を奴隷として連れ去る事件が再び起こっていた。
「殿、堺より急報にございます!」
柴田勝家が文を差し出す。
信忠は目を通し、眉をひそめた。
「……またか」
文には、南蛮商人が日本人を買い取り、
船に乗せて海外へ売り飛ばしたという記録があった。
「父上が禁じたはずだ。
だが、天下が乱れた隙に、奴らは再び牙を剥いたか」
信忠は静かに立ち上がった。
「勝家、堺へ使者を出せ。
南蛮船の監視を強化し、奴隷売買を行った者は即刻拘束せよ」
勝家は深く頷いた。
「殿……南蛮人は反発いたしましょう」
「構わぬ。
日本を植民地にするつもりなら、こちらも覚悟を示すだけだ」
信忠の声は鋼のように固かった。
その日のうちに、堺・博多・長崎・敦賀の湊へ織田家の命令が伝えられた。
「南蛮船の入港は織田家の許可制とする」
「日本人の売買を禁ずる」
「鉄砲・硝石・火薬は国家管理とする」
湊の商人たちは驚き、南蛮人たちは激しく反発した。
「これは我らの商売を奪うものだ!」
「日本は南蛮の庇護を受けねば発展できぬ!」
「織田家は世界を知らぬ!」
だが、堺の豪商・今井宗久は静かに言った。
「信忠様は、信長様以上に世界を見ておられる。
この改革は、日本を守るためのものだ」
その言葉は、湊の商人たちの心を揺らした。
信忠は堺へ向かい、南蛮商人たちと直接対面した。
彼らは豪奢な衣服をまとい、金銀の装飾を身につけていた。
「信忠殿、我らの商売を妨げるおつもりか」
ポルトガル人の代表が言った。
信忠は静かに答えた。
「妨げるのではない。
正すのだ」
南蛮人たちは顔をしかめた。
「正すとは?」
信忠は一歩前に出た。
「日本人を奴隷として売る行為――
これを織田家は絶対に許さぬ。
日本は南蛮の植民地ではない。
我らは対等の国として交易を行う」
南蛮人たちはざわめいた。
「対等……?
日本が我らと対等だと?」
信忠は鋭い眼差しで言い放った。
「そうだ。
鉄砲を作る技術も、硝石を精製する技術も、
日本はすでに南蛮に劣らぬ。
交易は続ける。
だが、支配は許さぬ」
その言葉は、南蛮人たちの胸に突き刺さった。
堺の湊を視察した信忠は、港の広さ、倉庫の数、商人の活気を見て確信した。
「この湊を押さえれば、日本の経済は動く。
湊を整え、街道を繋ぎ、天下の物流を織田家が握る。
これが、戦より強い力となる」
柴田勝家が頷いた。
「殿……父信長様の“天下布武”を、殿は“天下経武”へ変えられるのですな」
信忠は静かに微笑んだ。
「戦で勝ち、経済で治める。
これが、織田幕府の形だ」
その夜、堺の湊に新しい灯りがともった。
南蛮船は織田家の監視のもとで荷を下ろし、
日本人奴隷売買は完全に禁止された。
湊の商人たちは言った。
「信忠様は、信長様以上に天下を見ておられる……」
「この方なら、日本を守れる……」
「いや、日本を世界へ押し出すお方だ……!」
信忠は堺の海を見つめた。
「父上……私は日本を守り、世界へ進ませます。
これが、私の天下です」
その言葉は、夜風に乗って湊へ広がった。
南蛮貿易の改革は、ここに始まった。




