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第十章 織田幕府の構想

山崎の戦いが終わった翌日、信忠は京へ入った。

本能寺と二条御所の焼け跡はまだ煙を上げており、京の町は混乱と恐怖に包まれていた。


だが、信忠の軍勢が整然と京に入ると、町人たちの表情は徐々に変わっていった。


「信忠様が……京へ戻られた……!」


「織田家はまだ終わっていない……!」


「いや、これから始まるんだ……新しい天下が!」


その声は、信忠の胸に静かに響いた。


信忠は二条城跡に陣を敷き、すぐに朝廷へ使者を送った。

その日の夕刻、信忠は内裏へ招かれ、後陽成天皇の勅使と対面した。


勅使は深く頭を下げた。


「信忠殿……この度の光秀討伐、まことに見事にございます。

 信長公の御死去により、天下は乱れかけましたが、

 そなたが織田家を継ぎ、再び静謐をもたらしたこと、

 朝廷として深く感謝いたします」


信忠は静かに膝をつき、頭を下げた。


「父信長の死は痛恨にございます。

 しかし、織田家はまだ死んでおりませぬ。

 天下静謐のため、私がその道を継ぎます」


勅使は信忠を見つめ、慎重に言葉を続けた。


「信忠殿……朝廷は、そなたに征夷大将軍の任を与えることを検討しております。

 武家政権の長として、天下を治める覚悟はおありか」


広間の空気が張り詰めた。

信忠はゆっくりと顔を上げた。


「覚悟はございます。

 しかし――」


勅使が息を呑む。


信忠は静かに続けた。


「私は父上のように、ただ武力で天下を治めるつもりはございません。

 武家政権と公家政権――二本柱で天下を治める。

 これが、私の考える新しい天下でございます」


勅使は驚き、そして深く頷いた。


「二本柱……武と文の共治……

 信長公が望まれながら、果たせなかった天下の形……

 それをそなたが成すと申すか」


信忠ははっきりと答えた。


「はい。

 父上の道を継ぎつつ、私の道を作ります。

 戦だけでは天下は治まりませぬ。

 経済、街道、湊、南蛮貿易――

 すべてを整え、乱れぬ天下を築きます」


その言葉は、朝廷の重臣たちの胸に深く響いた。


内裏を出た信忠は、京の町を見渡した。

焼け跡が広がり、町人たちが瓦礫を片付けている。


柴田勝家が近づいた。


「殿、朝廷は征夷大将軍の任をお考えとのこと、まことに喜ばしきことにございます!」


信忠は首を振った。


「勝家……私はただ将軍になるだけでは足りぬ。

 父上のように戦で天下を治めるだけでは、乱は再び起こる。

 私は、戦と経済の両方で天下を治める。

 そのために――」


信忠は京の町を指差した。


「まずは京を復興する。

 町を整え、湊を整備し、街道を繋ぎ直す。

 天下の中心を、再び織田家のものとする」


勝家は深く頷いた。


「殿……父信長様を超えるお方にございますな」


信忠は静かに微笑んだ。


「父上の夢を継ぎ、さらにその先へ進むだけだ」


その夜、信忠は二条城跡の本陣で地図を広げた。

近江、美濃、尾張、畿内――

そして堺、博多、長崎、敦賀の湊。


「湊を押さえ、街道を整え、南蛮貿易を管理する。

 鉄砲と硝石を国家の手に収める。

 日本人の奴隷売買を禁じ、南蛮勢力の植民地化を阻止する。

 そして――鉄砲外交で世界に影響力を持つ」


信忠は地図に手を置いた。


「これが、織田幕府の形だ」


その言葉は、静かだが確かな力を持っていた。


織田信忠は、父信長を超える天下を描き始めた。





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