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王立学院

 翌日――


 王立学院への道のりを、アネットのホロウ公爵家の馬車が進んで行く。


 俺もそこに同乗させて貰っていた。


 何気なく窓の外を眺めていると――


「うおっ!? な、何だ、急に足が……」

「す、竦んで動けないっ」

「さ、寒気が……寒気がしますわ」


 道行く学院の生徒達が足を竦ませたり、何もない所で転倒したり、寒気に身を震わせてうずくまったりしている。


 『覇気』スキルの効果だ。


 馬車に乗る俺が発する効果が、通りがかりの生徒達を無差別に巻き込んでいる。


「あははっ。みんなガタガタ震えてるわよ? あ、転けた。面白いわね〜」


 それを見て喜んでいる性格の悪い奴がひとり。


「やめとけよ。性格悪いぞ」


「何よいい子ぶって。散々あんたの事馬鹿にしたり、陰口叩いて来た奴等の情けない姿よ? 面白くないの?」


 さすが、後半ボスの素質もある女だ。


 悪い子じゃないが、決して聖人君子でもないのだ。


「さあ、別に」

「あたしは面白いわよ。あ、何あいつの転び方、だっさ〜、恥ずかし〜」


 そもそも邪教セットを着たまま来るように言ったのもアネットだ。


 はじめからこのつもりだったのだろう。


 さすがに目立つので、俺はその上に学院のフード付きローブを被って来ている。


「転んでパンツ見せてたのはお前だけみたいだけどな?」

「う、うるさいわねえ……!」


「どれ、他の子のも見えるか確かめて……」

「バカ! やめなさいよ! あんた曲がりなりにも婚約者がいる身でしょうが!」


 窓のカーテンを閉められる。


 まあ、これで静かになるな。


 しかし、婚約者なあ――


 アネットが俺を婚約者として受け入れて、メンケアしたり更生を促したり、必死に支えようとしているのは分かる。


 情の深い子だな、と感心せざるを得ない。


 ただ、俺の知るゲーム正史では、アネットはメイルの元婚約者になってるんだよなあ。


 設定に一文書かれてるだけなので、詳しい経緯は俺も分からない。


 だが正史を守るには、いずれそうしなければならないだろう。


 それにこれはゲーム知識ではなくメイルの記憶としてだが――


 アネットがメイルを意識するようになったのは、昔、俺が魔法の暴走事故から彼女を助けてからのようだ。


 だが、真相は別にアネットの身を案じて助けようと思ったわけではなかった。


 たまたま暴走現場に飛び込んでしまい、倒れ込んだ所にアネットを巻き込み、それが事故から救う結果になっただけだ。


 メイルはアネットの公爵家の財産や権力は欲しがったものの、彼女自身については鬱陶しがっていた。


 アネットは優秀過ぎるので、一緒にいるだけで劣等感を感じさせて嫌だったらしい。


 メイルにはもっと平凡な、可愛いだけの従順な子のほうが合っているのだろう。


 アネットとしては報われない話だ。


 結構尽くしてくれる性格だと思うし、可愛い所もあると思うのだが、メイルには全然響いていなかった。


 男運が悪いとしか言いようがないな。


 それだけにまあ、せめて後半ボスルートには行かないようにしてやろうとは思う。


 静かな馬車の中でそんな事を考えていると、ふとアネットと目が合った。


「何?」


「いや……何か、ごめんな」


「ホントよ。あんたが見ていいのは婚約者のだけなんだから。婚約者なんだから当たり前でしょ?」


 え? 何? パンツの話か?


 まだその話に囚われてたのか?


「お、おう」


「だから、どうしても見たければあたしに言いなさい。か、考えてあげるから」


 ほんの少しだけ、スカートの裾をたくし上げるような仕草。


「……いや、遠慮しとく」


「! 何でよ、昨日は喜んでくれたじゃない!?」


 そんなこんなで学院の教室に向かい――


 席に座っていると、ざわめきと共に、皆がコソコソと俺の方を見ている。


「な、なんだあの迫力……」

「あ、ああ。あいつが教室にいるだけで、寒気がして来る」


「な、何かの魔法か?」

「あの、魔力不能の雑魚メイルがか……?」


 この国は魔法を重要視する国だから、魔力の才能がないメイルは親のコネだけで栄誉ある王立学院に捻じ込まれたボンボンでしかない。


 当然周囲の目は冷たく、家の格が近い者達は露骨に侮蔑したり嫌がらせをして来る。


 そうでない者達には好き放題に陰口を叩かれ、憂さ晴らしの餌になっていた。


 こんな状況では、メイルが荒れるのにも同情の余地はあるな。


 父親のファーム侯爵の力で授業に出なくても卒業学位は貰えるだろうし、成績も優秀だったと色を付ける事も出来るだろうし、たまに顔を出してただけでも偉い。


 おかげで今俺も、ここで次のレベル上げの算段をつけるために動けるからな。

 

 俺が素直にアネットの誘いに乗って来たのもそのためだ。


「ん~♪ ふふ~♪ 普段人の事馬鹿にしてる奴等がビビってる顔見るの、気持ちいい~♪」


 そして、俺以上に心からこの状況を楽しんでいる娘が。


 ホント、このために俺を呼んだな、アネットめ。


「や、やあメイル様。暫くぶりですね」 


 そんな時、俺達の側に来て話しかけて来る生徒が。


 金髪のイケメン騎士という表現がぴったりの、華のある人物だ。


「……おう、ケルビンか」


 ケルビン・グレン。グレン子爵家の一人息子だ。


 グレン子爵家はアネットのホロウ公爵家に仕える家柄だ。


 ホロウ公爵領の一部の街の統治を任される立場であり、うちの領地とも近い。


「アネット様も、ごきげんよう。今日もお美しくていらっしゃいますね」


 アネットはケルビンにとっての主君筋。


 その態度はとても丁寧で恭しい。


「どうも。ありがと」


 アネットの態度はそっけないものである。


 家の格はメイルとアネットが相応しいが、人間の格はケルビンとアネットのほうが遥かに相応しい。


 周囲はそう評価して憚らない。


 俺もそう思うぞ。


 だが、アネットはこんな様子だ。


「メイル様は、す、少し雰囲気がお変わりになりましたか……?」


 ケルビンが俺にビビッているのは、その表情から伝わって来る。


 『覇気』スキルの効果は確実に出ている。


「そうか? 別にいつもと変わらないぞ?」


 スタータスは、な。


 レベルと『覇気』なんて実はハリボテ。中身は雑魚いままだ。


「そ、そうですか? お元気ならばそれは何より。僕が実技訓練でやっつけ過ぎて、心が折れてしまわれたかと心配していました」


 おぉ~。こいつ、『覇気』の影響を受けながら煽って来るとは勇気あるな。


 さすが主人公の仲間キャラルートもある男だ。


 ゲーム本編で言えば、メイルよりよっぽど格上の存在なのだ。


「ケルビン……!」


 しかしアネットは露骨に不愉快そうな表情を浮かべる。


「ははは。アネット様、僕は事実を述べただけで……」


 と、そこに教室に教官が入って来る。


「皆さんおはようございます。さあ私語は止めて席に着いて――うぉっ!?」


 俺の『覇気』にやられたか、中年の教官の脚がガクガク震えてその場に膝を突いてしまう。


「な、何だこれは……? メイル様? メイル様から何かが――」


「きょ、教官! 気分が優れないので、救護室で休んできます……」

「え、ええ。他にも気分が優れない方は構いません、救護室へ」


「「じゃ、じゃあ俺も……!」」

「「私も……!」」


 教室の人数がごっそりと減って行ってしまう。


 そんな中で、教官に向けてすっと手を上げるアネット。


「先生! 人数も少なくなりましたし、予定を変更して実技訓練をしませんか?」


「そ、そうですね……みなさんの講義が遅れるより、それがいいでしょう」


 教官が頷くと、アネットはにやりと笑みを見せてケルビンを煽った。


「ケルビン。また同じ口が聞けるかどうか見せてみなさいよ」


 いやー、勘違いしてないか? 普通に出来ると思うが?


 俺はレベルは上がったが、別に強くなっていない。ステータスは変わらないから。


 確実に勝たせたいなら毒沼と袋小路を用意しろと言いたい。


 あと、魔法は弾き(ディフレクト)出来ないから、魔法も禁止で頼む。


ここまで読んで下さりありがとうございます!


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