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呪いの神装備

「えぇ? メイルが毒薬を沢山集めてる?」


 ホロウ侯爵領の領主の館。


 アネットは屋敷の執事からそんな知らせを受けていた。


「はい。あちらだけでなく、こちらの公爵領の商店も品切れだそうです」


「あいつ。王立学院にも顔を出さずにサボって、何やってるのかしら」


 前に貸したお金の使い道がそれなのだろうか。


「分かりませんが、メイル様には前科がありますゆえ、皆怯えております。ですからこちらの耳にも入ってくるものかと」


 執事は極力淡々と話をしてくれている。


 が、メイルに対する嫌悪感は隠し切れないものがある。


「うん……」


 元々、少し前にメイルがホロウ公爵領内で狼藉を働いた時、公爵家の我慢は限界に来ていた。


 それをアネットが必死に説得して抑えたのだ。


 そう簡単に悪印象が払拭されるはずもない。


「悪いことは申しません。今からでもメイル様との婚約は考え直されては……?」


「……」


 それまでも、基本的に周囲はメイルとの婚約の継続に否定的だった。


 解消の口実にならないかと常に粗探しをされてきた。


 が、アネットが魔術的な才能や、王立学院での優秀な成績で黙らせてきたのだ。


「嫌よ。それは何度も断ってきたでしょ?」


 最近のメイルの振る舞いに目に余るものがあったのは事実だ。


 使用人への暴言、暴行は元より、王立学院でも傷害沙汰。


 守るべき自領の領民たちにまで手出しをする。


 アネットもその評判に心を痛めていたし、何度改善を促しても鬱陶しがられたり、暴言を浴びせられたりした。


 正直アネット自身も限界が近づくのを感じていたが、この間メイルはついに約束してくれたのだ。


 もう二度としないよ、と。


 メイルがそんな事を言うのは、初めてだった。


 嬉しかったのだ、神に感謝したいくらいに、本当に。


 だから、自分がメイルを信じなくてどうするのだ。


「念のため、監視の者は付けさせて頂きます。ご容赦を」


「ええ、いいわ。あたしも様子は見ておくから」


 メイルは変わってくれる。


 何も心配するようなことは起きない。

 

 そう信じるからこそ、アネットは抵抗すること無く頷いた。


 そしてメイルの事を胸中で案じるが故に――


 部屋を出る際にこちらを少し振り向く執事の瞳が、怪しく輝いている事を見落としていた。


  ◆◇◆


 バシュウゥゥンッ!


 『ミストベア』を倒した直後の俺の体の内から輝きが発生して全身を包む。

 

 これは、レベルアップの光だ。


「お? ほー……これは、気持ちいいな」


 体感するのは初めてだが、これはなかなかの物理的快感を伴う。


 それが何度も連続して発光を続けると、高いマッサージ機に揺られているみたいだ。


「お? 止まったか」


 で、こうなっていた。

 

□――――――――――――――――――――□

【名前】 メイル・ファーム

【レベル】『3』 ⇒『15』

《HP》31/31 ⇒71/71

《MP》 0/0  ⇒0/0

《筋力》5 ⇒ 15   

《頑丈》6 ⇒ 16

《技術》4 ⇒ 14

《敏捷》7 ⇒ 19

《知力》3 ⇒ 11

《精神》3 ⇒ 11

【スキル】ディフレクトヒール

□――――――――――――――――――――□


 はい。レベルが一気に12上がったのはさすが。


 だがステータスは10前後しか上がってない。


 レベル1あたり、1も上がってないって事だ。


 主人公キャラや、それこそアネットのような強キャラならレベル1桁でこれより強い。


 これは結構な大惨事だが、ステータスの成長タイプが影響している。


 俺、メイルは『大器晩成』型。


 『大器晩成』は低レベルの頃のステ成長率が悪いんだよな。かなり。


 何の手も加えなくてもこの始末だからな。


 半面、高レベルでのステアップは爆発的だ。


 だけど、序盤ボスの俺が高レベルになる事は普通無いわけで、これが俺の弱小感を際立たせる要員の一つでもあるだろう。


 だが逆に今は、レベルが上がっても強くならないのは助かる。


 高レベルかつ低ステが目指す所だからな。


 これはまだ許容範囲だが、ステの上がり過ぎを防ぐための準備は必須だ。


 さもないと主人公が俺を倒せなくなる。


 ゲーム正史の俺とステータスが乖離し過ぎるのはNGだ。


 そこがクリアされてこそ、本格的なレベル上げに励むことが出来る。


 勿論、それも腹案がある。


「さてさて、それから――」


 俺は『ミストベア』の亡骸を振り返る。

 

 だがそこに既に凶暴な熊の倒れ伏す姿は無い。


 魔物は倒されると、換金用の魔晶石と確率抽選のドロップアイテムを残して消滅するのだ。


 毒沼にキラキラとした魔晶石の輝きが残されているのが見える。


 後半モンスターだけあって、魔晶石は上質で高額になるだろう。


 そしてもう一つ、毒沼にごろんと転がる熊の頭蓋骨が。


「おぉ……!」


 来た来た! はい腹案が早速成就!


 ドロップ率は結構高いから十回以内には出ただろうが、一発はラッキーだったな!


 この頭蓋骨、『邪教の兜』という頭防具に加工できるのだ。


 見た目的には、これが真っ黒に塗られ、後頭部分には毛皮の飾り毛も取り付けられたような代物になる。


 暗黒騎士とか呪剣士とか、そんな感じのイメージの代物だ。


 昔、とある土着の信仰がこれを神体として崇め奉っていたが、当時の王国により邪教として滅ぼされたらしい。


 アイテムのフレーバーテキストによると、だが。


 性能的にはいわゆる呪い装備で、防御力はかなり高い。


 他装備とのコンビネーションで『覇気』スキルを発動させる事も出来る。


 で、呪いの内容とはレベルアップ時の全ステータス値へのマイナス補正である。


 通常プレイでは扱い辛い事この上ない。


 が、高レベル低ステを目指す俺にとっては、まごう事なき神防具となる。


 『ミストベア』は物理攻撃しかないので、毒ディフレクトヒールのスリップ削りで倒せるし、この俺にとっての神防具を狙わない理由がない。


 だから真っ先にここに来ていたわけだ。早めに出てくれてよかった。

 

 こいつの成長値マイナス補正があれば、『大器晩成』の成長が加速するまではレベルアップ時に無成長でやり過ごせるだろう。


「よし、今日の所はこのくらいにしといてやる!」


 俺は『ミストベア』の頭蓋骨を小脇に抱え、ニコニコ笑顔で『霧の古遺跡』を出た。


 さっそく、地元の道具屋で防具作成の手配だ。


 店の親父にはまた怖い思いをさせてしまうが許して欲しい。


ここまで読んで下さりありがとうございます!


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