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弱者の戦い=スリップ耐久戦術

 霧の立ち込める、森の中―― 


 俺は慎重に歩を進めていた。


 グルルルゥゥゥゥ……


 ガウゥゥゥゥ……


 魔物の唸り声があちこちから聞こえる。

 

 まだ見つかってはいけない。


 大物食い(ジャイアントキリング)は計画的に。


 狙った場所で狙った手順をノーミスで。


 これが成功の秘訣。


 逆に言うと、それ以外の事が発生すると簡単に崩壊しかねない。

 

 基本、一、二発攻撃喰らったら死ぬような相手だしな。


 もう少しで狩りのポイントだ。


 そこまでは慎重に、慎重に。


 この場所はうちの地元のファーム侯爵領と、アネットのホロウ公爵領の間に位置する森の中だ。


 その中央近くの一角に朽ちた遺跡が残っており『霧の古遺跡』と呼ばれている。


 名前の由来は、年中立ち込めている霧だ。


 もう真昼だと言うのに全く関係なく霧が濃い。遺跡自体が霧を生んでいるのだ。


 そしてこの霧の中に暮らすモンスター『ミストベア』が今回のターゲットだ。


 普通にゲーム後半レベルのモンスターなんだが、遺跡の生む霧の中から出てこないため、人里を襲って来る事はない。


 ゲーム的に言うと世界崩壊が近づいてくると、遺跡が生む霧が爆発的に増えて行き、こいつらを含む強力なモンスターが大量発生して村や街を滅ぼして行ってしまう。


 これを食い止めるには遺跡の内部に侵入して遺跡自体を破壊する必要があるんだが、これはまた別の話。主人公が果たすべきイベントになる。


 まあ俺の想定するチャートでは、霧の大発生が起きる前にラスボスが倒されて終わっているはずだ。今は考えなくていいだろう。


 さて、そんな『ミストベア』に挑む俺のスペックについて、簡単におさらいしておく。



□――――――――――――――――――――□

【名前】 メイル・ファーム

【レベル】『3』

《HP》31/31

《MP》 0/0

《筋力》5

《頑丈》6

《技術》4

《敏捷》7

《知力》3

《精神》3

【スキル】ディフレクトヒール

□――――――――――――――――――――□





 はい。数値的には特にどうと言うものはない。



 魔法は適性が無いので、MPはずっと0だと言う事くらいだろうか。



 見るべき所は1つ。


 【スキル】のディフレクトヒール


 効果としては、敵の攻撃を弾き(ディフレクト)で無効化した場合に、HPが5%回復するって内容だ。


 だから俺の装備は弾き(ディフレクト)判定が強い両手剣を背負って来ている。

 

 これが今回の攻略の肝であり、レベル3でこれを習得しているキャラは極めて珍しい。


 俺の知る限りメイルだけかも知れない。


 だから大物食い(ジャイアントキリング)の素質があると言った。


 もし主人公で最初からこれを使えるキャラがいたら、相当面白い事になっていただろう。


 ある意味その面白い事を今から俺がやらせて貰えるというわけだ。楽しんで行こう。


 ――よし、想定のポイントに到着。


 それは、遺跡の内部に降りて行くための狭い階段の先だ。


 降りた先は封印された扉によって封印されており、実質袋小路だ。


 だが、それがいい。


 この狭い通路で真正面から対峙するしかない地形――


 早速準備だ。


 俺は毒薬の瓶を封印扉の前にいくつもぶちまけ、即席の毒沼を作り出す。


「くっくっくっくっ……さあ、盛り上がって来たな」


 よし、行こう!


 階段を地上に。周囲を探る。


 銀色の毛並みをした、巨大な熊の魔物を発見。


 『ミストベア』だな。木に爪を立てて、爪研ぎ中のようだ。


 悪いが、邪魔するぞ! 俺はそこらに転がっている石を『ミストベア』に投げつける。


 見事にヒット。『ミストベア』がこっちを見る。


 ゴアアアアアァァァァァッ!


 突っ込んで来た! よし、後退!


 地下への階段を駆け降りる。目の前に広がる毒沼。


 そこに躊躇いなく足を踏み入れ、封印扉を背に『ミストベア』を待ち受ける。


 三秒後にはあちらも毒沼に突っ込み、丸太のような腕を俺に叩きつけて来る。 


 ガイィィンッ!


 だがその腕が幅広の両手剣の刀身を叩き、弾き返される。


 弾き(ディフレクト)が狙い通り決まったのだ。


 相手の攻撃にタイミングを合わせ、力を逸らし、弾く位置にこちらの武器を差し込んで防ぐ。


 それが弾き(ディフレクト)だ。


 ガイン! ガイン! ガインッ!


 更に鋭い爪と刀身が衝突し、火花が散る。

 

 全て弾き(ディフレクト)が間に合っている。


 これが広い場所であれば、絶望的なステータス差が反応速度の差を生み、俺はあっさり倒されていただろう。


 スピード任せに側面や背後に回りこんで攻撃されるだけで反応が間に合わない。


 《敏捷》の差があり過ぎるから。


 だがこの狭い通路。


 『ミストベア』は自慢の身体能力で動き回る事は出来ない。


 正面から爪で引っかいたり、噛みついたりするしかない。


 それなら読める。


 このモーションは何度も何度もゲームで見て来た。脳裏に焼き付いてる。


 俺のステータスでも弾き(ディフレクト)が間に合う。


 ガアッ!?

 

 『ミストベア』の姿勢が大きく崩れる。


 何度も弾き(ディフレクト)を受けて体幹が崩れたのだ。


 これは大きな隙――だが俺は攻撃に出ずスルーする。


 俺の攻撃など、致命的な隙を突いたとしてもロクに通らない。


 逆に、最速復帰から攻撃を合わせられて狩られる危険が増す。


 下手にこちらから攻撃に出なくても、ダメージは稼げている。


 足元の即席の毒沼だ。

 

 毒は割合ダメージ。毒状態になれば、一定間隔ごとに5%のスリップダメージが入る。


 すでに奴は毒状態。息が荒くなり目の輝きも濁って行く。


「よっ! はっ! ほらほら、もう一丁来い!」


 一方俺はピンピンしている。


 ディフレクトヒールで攻撃を弾くごとに回復が入っているから。


 毒のスリップはディフレクトヒールの5%回復で完全に相殺できている。


 やはり大物食い(ジャイアントキリング)の華と言えばスリップ耐久戦術だ。


 アイテム、スキル、地形。


 全てを理想的に組み合わせるゲーム知識と正確無比なプレイスキルが、これを可能とする。


 ただしワンミス即死だ。RTAの時はワンミス再走だったが、重みが違う。


 バトル中のヒリつきも脳汁も半端ではない。

 

 単純に言うと、楽しいなぁ!

 

「あっはははははははッ!」


 テンションブチ上げで笑い出しても問題ない。誰も聞いちゃいないのだ。


「グ……ウウゥゥ…」


 やがて、苦しそうな呻き声と恨めしそうな顔で、『ミストベア』が毒沼に沈んで行く。


 ――よし、勝った。そして狩った。


「ナイスファイト。楽しかったぞ」


 俺は毒沼からぴょんと飛び出し、崩れ落ちた『ミストベア』を労った。


ここまで読んで下さりありがとうございます!


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