我々の目的と計画について
さて、我々の目的と計画についてもう少し補足しておく。
何でアネットに金を借りたのか、という所にもリンクする話だ。
この今の俺、メイル・ファームは既出の通り序盤の弱ボスだ。
もう少し詳しく解説すると、俺の立ち位置は共通ルートの必須ボスだ。
このゲームは複数主人公からの選択式。
だが、どの主人公のシナリオにも俺は登場し倒される事になる。
これは強制。運命。しかも序盤で。
このディルフィング・サーガ、シナリオやイベントの自由度は超高い。
何も考えずにやってたら、毎回どこかしら違ったプレイ体験になるだろう。
だからこそ何周でもできる。好きな奴は本当にハマりにハマって抜け出せなくなる。
けど、それでも強制イベントって言うのはあるからな。
だから数々のRTAや実況、縛りプレイにおいて、メイルはその数だけ倒されて来たってわけ。
俺だって俺を何回倒したか分からない。
必須イベントだからこそ、俺をどう処理するかが腕の見せ所にもなる。
最速撃破で、プレイタイムの短縮を目指すもよし。
逆に可能な限り倒すのを後ろに引っ張るのもよし。
後の方が俺のレベルが少し上がって技が増えて、新技をカウンターした方が処理早いとかあるからな。
主人公とランダム技の組み合わせによるけど。
強くなったのに戦闘時間は短くされて、哀れな俺だ。
まあ、そのルート初めに開拓したの俺だけど。
これでもガチRTA勢だったし、世界最高齢のRTA記録を持ってる。
え? うん。日本人の俺はジジイだったよ?
つい先日、ばーさんや子供や孫達に看取られて大往生した。
そんな俺の晩年の青春がこのゲームだったわけだ。
で、メイルの事に話を戻す。
俺は序盤必須ボス。それはいいでしょう。
そんなの嫌だから逃げてやれ――とは思えない。
何故かと言うと、このゲームはダークファンタジー要素も強く、ゲーム内の時間が経過すればするほど世界は崩壊して行き、被害規模も拡大してしまうから。
要は時間が過ぎれば過ぎる程に人が死ぬ。
何の被害対策イベントもやらずに時間を進め過ぎれば、世界崩壊エンドが待ってる。
――俺が逃げたら、世界はそっちに流れかねない。
俺はそれを良しと出来ない。
つい先日まで気づかなかったように、この世界はそこで生きていればリアル以外の何物でもないから。
アネットだって、領地の住民達だって、生きた人間にしか思えない。
彼等を守り、被害を最小に食い止めるには――
それこそ、必須シナリオを最短でエンディングまで駆け抜けるRTAだ。
多分、それが一番早いと思います。
そのためには、俺は逃げてはいけない。攻略チャートが乱れる。
現実世界で言うと、自分が死ななきゃ日本が崩壊する、ってなった時に受け入れられるかって話だ。
受け入れられないって人も多いと思う。それはそれで間違いじゃない。
でも俺は――もう既に一回、人生大往生してるんだよな。
自分のためにはもう生きた。
思い残す事はない。
だからこの余生、世のため人のために生きてみたっていい。
俺の晩年の青春、愛するこの世界のために――体張ってやろうじゃないか!
ただし、何の工夫も無くシナリオ上倒される時を待つのも芸がない。
ここにちょっとしたスパイスを加えれば、RTA史上最速タイムも可能だと俺は思うのだ。
で、そのスパイスとは――俺のレベルをあらかじめ異常なまでに上げまくっておく事、だ。
敵とのレベル差があればある程、取得経験値は増す。
主人公が俺を倒した瞬間、一気にクリア可能レベルにまで引き上がり、そのままノンストップでラスボスを倒してクリア!
そうなれば世界的な被害は最小。必須ボスではないアネットが倒される必要も無くなる。
これだ。これを狙う。
メイルとしての俺のプレイで攻略チャートを大幅短縮できる、唯一の手だと思う。
というわけで世界をスピード攻略に導くために、今日からレベルを上げまくるぞ!
ただし、ステが上がり過ぎると主人公が俺を倒せなくなる。
レベルを上げつつ、ステは上げない。超高レベル超低ステという謎ビルドを目指すのだ。
侯爵家の恥部、悪徳貴族メイルとしての社会的評価も維持しつつ、な!
そのための軍資金が、アネットから借りた金だ。
◆◇◆
と言うわけで、俺は地元の街の道具屋に来ている。
「どうも。これ、全部もらえる?」
カウンターには、紫の液体が入ったビンがぎっしり並んでいる。
やはり毒だよな、毒。
大物食いと言えば、だ。
俺、メイルは大物食いの才能は割とあると思っていい。
出来るなら、初めからガツンと行くべし。
今後の長いレベル上げのルーティンを早く確立するためにも、だ。
「あ、あの……メイル様、こんなに大量の毒を何にお使いに……?」
店主の親父はかなり怯えた様子だ。
まあ、俺メイルと言えば地元では札付きのワル、悪徳貴族だ。
下手すれば、犯罪の片棒を担がされることにもなりかねない。
不安がるのも無理はないだろう。
先日は自領内で勝手に税金徴収して悪さしてたしな。
アネットのほうの領地ではやってないが、こっちではガチでやらかしている。
「まあそうだな、世界平和のため、かな?」
「せ、世界平和ですか?」
これを使ってレベル上げをする⇒レベルの上がった俺を主人公が倒す⇒俺の経験値で超レベルアップした主人公がラスボスを倒す⇒世界平和。
こういうチャートだから間違っちゃいない。
「そう。だから――この通り、決して悪いようには使わないから売ってくれ。頼む」
俺は店主に向かって頭を下げた。
「メ、メイル様……」
店主が驚きと共に、少しほっとしたように俺を見た。
侯爵家の札付きと思っていたが、意外と素直な所もある?
そんな心の声が聞こえてきそうだ。
……いかんいかん。
「これでも断った場合、お前と家族の身の安全は保障しない」
「ひいっ!? わ、分かりました……!」
どうしようもない悪徳貴族という社会的立場の遵守も重要だ。
攻略チャートの乱れに繋がるからな。
というわけで準備は出来た。
アネットから借りた金は全部毒に化けたぞ。
じゃあ早速、実践行ってみよう!
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