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転生先は序盤ボス

 その日は、朝から頭痛がしていた。


「ちょっとあんた、どういう事よ!?」


 ばんっ!


 立派な執務机を強く叩く音が響く。


 声と音の主はホロウ公爵家の令嬢、アネットだ。


 机に腰掛け身を乗り出して凄む姿勢は、結構迫力がある。


「何だその姿勢は? 公爵令嬢のくせに行儀がなっていないな、行儀が」

 

 俺、メイル・ファームは苛つきながらそう答える。


 頭が痛いのに騒がしい事だ。


「どっちがよ! 新しい税だなんて嘘ついて、勝手に領民からお金を取るなんて! しかもあんたのとこだけじゃなく、うちの領地にまで手を出したでしょ!」


「ふん。知らんな」


 自分の家の領地はさておき、隣の公爵領の事など知らない。


 まあ俺はここらでは悪い方に名が通っている。曰く、侯爵家の恥だそうだ。


 俺の名を騙れば誤魔化せると思った者が、あちらにいるのだろう。


 ははっ。碌なものじゃない。


 お互いにな。


 ――しかし頭が痛い。


 これは異常だ。


「ぐ……ぅ」


 しかし頭に血が昇ったアネットは気付かずにヒートアップして行く。


「とぼけないで! 今回は何とか皆を宥めてみるから、もう二度としないでよ!? 次はもうあたし、庇えなくなっちゃうから……! そうなったら婚約だって無かった事になるわよ!? それでいいの?」


 痛い痛い。頭が痛い。


「し、知らんと言っている……! 逆にお前が俺を貶めようとしてやらせたんじゃないのか? 不出来な婚約者を切って、他の男に懸想するためにな……!」


「ば、馬鹿あぁぁぁぁっ!」


 ばちんっ!


 アネットの平手打ちが俺の横面を張り飛ばし、俺は椅子から転げ落ちて床に転がった。


 世にも情けない姿だが、俺が弱いというだけじゃない。


 こいつが強過ぎなのだ。


 流石は後半ボスの可能性もある女だ。


 序盤ボスの俺とはポテンシャルが違う。力は低いはずの魔法職なのにな。


 ――ん? ボス? ボスって何だ?


 序盤? 後半?


 なんか決まったシナリオがあるの?


「あんたの気持ちも分からなくは無いわよ? この国の人間は、魔法の才能の無い人間を下に見るから……」


 涙を浮かべながら語りかけてくるアネット。


「魔力不能者のあんたはずっと陰口言われ続けて……だけどそれに負けてたら、そんな奴らの思う壺じゃない! 負けないでよ! あたしは味方だから……!」


 しかし俺の耳に入っては来るが、響かない。

 

 ん? ん? ん? ん!


 あ、そうだ!


 メイル・ファーム。序盤の弱ボス。

 アネット・ホロウ。後半の強ボス。


 これディルフィング・サーガじゃん!


 俺の愛する、俺が人生で一番やり込んだゲームだよ!

 

 それに気づいた時、もう俺の頭痛もどこかに消えてなくなっていた。


 あ、あとアネットくんね、君味方かもしれないけど仲間じゃないからな。


 魔法の才能がない俺とバリバリの一流魔術師で超レア属性の『星』の適性持ちでは、立場が違い過ぎる。


 安易に負けるな頑張れ言っても逆効果かもよ?


 将来的にメテオ落とせる奴に言われましても……ってなるわな。


 まま、それはそれとして――


 俺は俺の置かれた状況について考える 


 自分が日本人として死んだ覚えはあるし、転生ってやつなのか?


 または消えていく魂が、走馬灯的なものを見てるのかも知れない。


 でもよりもよってメイル・ファーム?



 主人公に倒されるだけの悪役なんて御免だぞ……!?



 ――とは思わなかった。


 机の上に置いてあるカレンダーに目を向ける。


 ……遅くとも後三年って所だな。

 

 何って、俺が主人公に倒されるイベントの発生まで、だ。


「ねぇちょっと聞いてるの? なんとか言いなさいよ」


 だから俺は食い下がってくるアネットに対し、希望と確かなビジョンを持ってこう応じる。


「お前の言いたいことは分かった。巻き上げた金は返す。もう二度としないよ」


「え!? ホ、ホント? 分かってくれたの……!?」


 アネットがぱっと顔を輝かせる。


「ああ、だから頼む――金貸してくれ」


「全然分かってないでしょ!? バカあぁぁぁぁっ!」


 だけど何だかんだ貸してくれた。


 サンキュー、アネット!


ここまで読んで下さりありがとうございます!


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