新スキル
迎撃ポイントから睨みを利かせる俺。
騎士隊長に付き従う兵達の膝が笑いはじめる。
「な、何て迫力だ。こいつ本当に『侯爵家の恥部』なのか……!?」
「う、うう。足が竦んで……!」
殺気と共に放たれる『覇気』にだけは自信がある。
「くっ……怯むな!」
「部下にそう言うなら、まず自分から来いよ!」
「う……うおおおぉぉぉっ!」
流石は騎士隊長。
『覇気』の影響を振り払って斬りかかって来た。
早く鋭い攻撃だ。
俺は弾きの隙を伺いながら、防御に専念する。
「この手応え……発する気迫程ではないっ!」
見抜かれたか。正解だ。
一気呵成に連撃が浴びせられる。
隙の少ない連撃は、中々弾きを取りにくい。
それに敵の手数が多いと、反応も間に合わない。
ここは当たったら危険な攻撃だけを武器ガード。
鎧兜に当たる攻撃はあえて食らうとというように割り振って凌ぐ。
当然ダメージは負うが――
「どうした! 防戦一方か!」
大上段。大振り――取れる!
ガイィィンッ!
「くっ!」
体勢が崩れ、仰け反る騎士隊長。
ディフレクトヒールで俺のダメージは回復。
何度かに一度弾きを取れれば、全く問題ない。
「何をしている! 援護しろ!」
騎士隊長が配下達に呼びかける。
「し、しかし道幅が狭い上、矢や魔法は隊長を巻き込みかねず……!」
「そうではない! 別口から回り込んで、奴の背後を取れ!」
「! なるほど、分かりました! 行くぞ!」
もう半数が別の階段に回り込むべく走り去っていく。
目の前は、もう片手程の人数しかいない。
――好機だ、こちらも動く!
俺は騎士隊長の攻撃を凌ぐ中、あえて大きく体勢を崩してみせる。
誘いの隙だ。
「今だ! 聖光斬――」
それはこの間、ケルビンが見せてくれた!
ガキィィィィィンッ!
祈りの構えを見て、剣を振り上げる瞬間に弾きを入れる。
「ぐううぅぅっ!?」
また体幹が崩れ、今度は膝を突いてしまう。騎士隊長。
「甘いな。その剣技は隙が大きいんだよ」
「調子に乗るな! ただの一太刀も私に入れられぬ癖にッ!」
ぽたり。
怒る騎士隊長の額から血が滴り落ちる。
ダメージを受けている証だ。
「な……!? 何故だ? 何故私が? 目に見えぬ速さの攻撃か……!?」
無茶を言ってはいけない。俺にそんな真似は出来ない。
だが、俺もステータスは雑魚のままだがレベルは50。
レベルアップで習得するスキルは当然身に付けている。
今のは『ディフレクトリバース』。
弾きで防いだ攻撃のダメージの一部を、相手に与えるスキルだ。
奴の聖光斬が強力だったが故に、流血する程のダメージになったのだ。
「さあ、次はどうするんだよ?」
俺は蹲る騎士隊長に一歩踏み出す。
「くそっ……! だが、逃がさん!」
後ずさりして距離を取る騎士隊長。
「魔法、弓で足止めしろ! 別動隊が回り込む時間を作れ!」
魔法には弾きが通用しない。
だからむしろこの方が俺には厄介だ。
なのだが――前が空いた!
「だああぁぁっ!」
俺は階段を蹴り、宙に身を躍らせる。
「跳んだ!? 撃て!」
騎士隊長の指示が飛んだ時、既に宙に飛んだ俺の姿はそこに無い。
「!? 消えた!? どこだ!」
その時、俺の姿は最後尾で弓を構えていた兵士の背後にあった。
これは背影殺。標的の背後に回り込む奇襲スキルだ。
間に障害物がある場合発動できないが、今は騎士隊長が引いて前が空いていた。
俺、メイルの習得スキルの数は少ない。
が、レベル50まで一気に上がったのだから、流石にもう一つくらいは覚えていてもいい。
「でえぇぇぇいっ!」
「ぐわあああぁぁぁぁっ!?」
俺の斬撃を受けた兵士が悲鳴を上げて崩れ落ちる。
だが、出血など特に目立った外傷は無い。
「あ、あれ……!? 血が出ない!? み、みね打ちか!?」
「いいや! 俺が雑魚いだけだ!」
その時、俺は既に脱兎のごとく城の出口に駆け出していた。
「くそ! 抜けられた!」
すぐに俺を追おうにも、倒れた兵士が邪魔をして足を取られている。
その間、俺は城の建屋の外に飛び出す事に成功していた。
そして近くに繋がれていた複数の軍馬を発見すると、縄を切って尻を叩く。
馬が暴れ出し、城門のほうに走って行き混乱が起きる。
「うわ!? 何だ!? 誰が馬を放った!?」
「お、抑えろ! どうどうどう……!」
「くそっ!? 邪魔だ! それよりメイル・ファームは何処だ!?」
城内にいた騎士隊長達、暴れ馬、城門の兵達。
それぞれがもみくちゃになる混乱を、俺は物陰でやり過ごす。
これも敵の目を誤魔化す囮。
城門は閉じられていて、そう簡単に開けない。
だから混乱の隙に、俺は裏手の水路の方に回る。
ここは城の敷地内にまで水を引き込んで、水源としているのだ。
水路に到着。俺はすぐに水に飛び込む。
水路の底の柵は破損していて、通り抜けて城壁の外に出られるのだ。
これもゲーム知識。本編では、ここから奇襲するイベントもあった。
「ぶはぁっ!」
俺は城門の外側で水から上がると、大きく息を吐く。
周囲にまだ追手の姿は無い。すぐ離れれば完全に撒けるだろう。
「よし……逃げ切ったか」
脱獄ミッション成功! と言ったところか。
ディフレクト系のスキルを複数持った耐久向け。
と思わせて、盗賊やアサシン向けの奇襲スキルも習得する。
結構チグハグなので、パーティ戦だとどちらかが死にスキル化する性能だろう。
だが、ソロなら幅広い状況に対応できる立ち回り強者。それが俺だと思う。
この脱獄ミッションは性能を遺憾なく発揮できて、なかなか面白かったな。
だが楽しんでばかりもいられない。
冤罪を晴らすため、休んでいる暇はないのだ。
俺はすぐに、その場から駆け出した。
向かう場所は、ちゃんと頭にある。
ホロウ公爵領の街にある道具屋――
俺が毒薬を買い占めていた、と嘘の事実認定をされてしまった場所だ。
まずは経緯を確かめる。
そして、俺がホロウ公爵領では買い占めていないと証言してくれる人物を確保。
その上でセネリオ王子に、俺は冤罪だと訴え出る。
セネリオ王子は五人いるこのゲームの主人公候補の一人でもある。
だから大前提として悪い人間ではなく、信用できるのは間違いない。
あらかじめそれが分かっているのは大きい。
証人さえ確保できれば、必ず俺の話に耳を貸してくれるだろう。
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