【第七話】異国商人と、変飲家
この国は、海の上に浮かぶ島国だ。
王都は海に面した場所にあり、南西区画にはこの国の玄関口ともいえる港が存在している。
南西区画はその立地故、商業区画となっており、そこでは朝から毎日のように盛んに取引が繰り広げられている。
そんな商業区画の一角にある、中規模程度の商会の応接室で、メリアはペストマスクをつけ緑色のフードを被った、100cm前後の小さな人影と話をしていた。
「いやー何時も納期通りに納品、ありがとでーすよ」
「当たり前でしょ~あはは、はは~」
そう言って話す二人の間には、まだ湯気が立つコーヒーが置かれていた。
「……大丈夫でーすか?すっごーくふらふらしていまーすが」
「あははー大丈夫大丈夫ー」
そう言って目の下にクマを作ったメリアは手をひらひらさせてそう言った。
「そうなのでーすか?なら問題ないでーすね。ところで今かーいの、買取価格なのでーすが、通常サイズ100万、Lサイズが300万でどーでしょ?」
「アハハー、別に構わないよそれで―」
「わかりまーした、それで買取を行いまーす。いやー、毎度の事なーがら。メリアさんとの取引はスムーズにいーって、ありがたいでーすよ」
「グラッチェさんが良い値で買い取ってくれるからね~、こっちとしても商談しなくていいから助かってるよ~」
そう言うと、メリアは目の前の小さな人……グラッチェ商会会長、グラッチェその人に笑顔を向けた。
「……そういえばさ、何時も結構な高値で僕の人形買い取ってくれるけど……利益って出てるのかい?」
「もちろんでーす。私の国では、いえ、私の国以外でもあなたの人形は大人気なーのです。今まーさに、王族貴族の間ーでは、生きた人形ブームが起こっていーると言ーても、過言ではないのでーすよ」
「……そうだったんだ」
「しらなかったーです?」
グラッチェにそう言われて、メリアは「うん」と頷いた。
「メリアさんらしいといーえば、メリアさんらしいでーすね。だからこそ商売がやりやす……いえ、なんでもないでーすね」
「ん?そう?」
「はい、きにしないでくだーさい。あ、そうそう」
そう言って、グラッチェはポンッと手を叩いた。
「メリアさーんは、コーヒー好きと聞いていたのでーすが。コーヒーの方は飲まないのでーすか?」
そう言ってグラッチェが指示した先では一回も手が付けられてないコーヒーがあった。
メリアはコーヒーを見ると、苦笑いを浮かべて答える。
「あ、いやー……なんていうか……その、ボク、そのぉ……」
「遠慮せーずに、トート共和国産の最高品質のコーヒー豆を挽いて入れた物ですーから。とても風味がよく、おいしいでーすよ?」
「あーうーん……トート共和国産かぁ……どうだろ?一回飲んでみる……うーん」
少し考えたメリアは悩んだ末、一口コーヒーを口に運び……
「ごくり……うげっ、薄い……ごほごほ……甘いし……苦い……駄目だぁ」
そう言ってメリアはむせ返した。
「おや?大丈夫でーすか?」
「うー……まあ、うん」
メリアはそう言った後口元を拭い、「実は……」と切り出した。
「実はさ、ボクコーヒーは特定の産地の豆じゃなきゃいけなくて……ベンダー島産、オードリア領産の豆じゃないとだめで……トート共和国のコーヒーは飲んだことなかったからワンチャン行けるかなーって思ったんだけど……ちょっと口に合わなかったみたいでねぇ」
「そうなのでーすか?それは失礼しまーした。……それにしーても、ベンダー島産、オードリア領産とは独特な味覚をしていまーすね」
「ははは~結構言われるよ」
「ベンダー島産、オードリア領産の豆なんてほぼ人間領の……そう言えばメリアさんは魔女の子ですが、人間でしーたね」
そう言うとグラッチェは納得したように頷いた後、何処からともなく取り出したストローを使ってコーヒーを飲んだ。
「うーん、美味でーすね。おや、どうしまーした?」
ジーっと見つめるメリアを見て、グラッチェは不思議そうに尋ねた。
「……いや、その、マスク外さないんだなって思って」
「はは、そう言う事でーすか。よく言われーます」
そう言うとグラッチェはごくごくとコーヒーを美味しそうに飲むのだった。




