【第三話】買い物と貴族の娘
黒色基調のどこか落ち着きながらも高級な雰囲気が漂う店内には、コーヒー豆の香ばしい匂いが漂っていた。
ここは王都北西部、この国の貴族たちが住む高級住宅街に存在する、コーヒーを専門店【黒鉄の城】という店だった。
「ベンダー島産、オードリア領産の豆。それぞれ2Kgづつだ」
「ああ、ありがとうリミばあさん」
そう言って紙袋二つを差し出してきたのは、茶色い肌をした老婆だった。
彼女の名前はリミテッド。
通称リミばあ。
人間の間では俗にドライアドと称される種族の植物型の魔物であり、よく見ると茶色い肌には木目のようなものが入っているのが見える。
「にしたってお前さん好き物よねぇ……」
「旨いんだよこれが」
そういうとリミばあさんは「そうかい」とつぶやいた。
「全く。お前さんが定期的に買ってくれるから仕入れてはいるが……ベンダー島のはお前ともう一人……オードリアのに関してはお前さんしか買わないからねぇ……」
「本当、何時も助かるよ」
「いいさ。ちゃんと金を払ってくれるならね……それにあんたにはうちの娘も世話になってるし」
と、そんな話をしていた時だった。
チリンチリンとベルの音が鳴り、店の中に客が入ってきた。
扉の先には二人の人物がいた。一人は銀髪赤目の、黒いゴシックなドレスを着た少女。そしてもう一人は、金髪青目のどこか気弱そうな黒い質尾服を着た少年だった。
「おやまあ、ベアトリスちゃんいらっしゃい。ジョセフ君も。」
リミばあさんがそういうと、ニコリとほほ笑んだベアトリスと呼ばれた少女は、ジョセフと呼ばれた少年を連れ、カウンターへと歩いてきた。
「……いつもの。お願い」
「ベンダー島のとリギッドのよね?どれくらい欲しいの?」
「……とりあえず1キロづつ」
そういうと彼女は、カウンターで袋を持って立っていたメリアに視線を向けた。
「……あなた……貴族ではないわよね。服装からして、庶民……それも南区らへんの住人かしら?」
「ん?ああ、ボクか……そうだけど、どうかした?」
そう、メリアが返すと彼女は何処か汚らわしい物を見るかのように嫌悪の視線を向けた。
「何故庶民の人間がこの場所にいるのかしら?この場所は清き青い血である貴族たちの住む場所……貴方のようなウジ虫が湧いて出ていい場所じゃないのよ?」
「ちょっと、お嬢様……」
「ジョセフ黙ってて」
「はい……」
キッとジョセフを睨みつけた彼女はメリアに向き直ると、上から下まで見た。
「それに、何?角も尾も生えてない、まるで人間みたいな醜い姿をしていて……汚らわしい。心底汚らわしい」
そう言った彼女だが、人間みたいな姿という点では全くのブーメランだ。
彼女には角が生えてるわけでもなければ、尻尾も生えてない。
肌も色白ではあるが、人間の肌の色の範疇にとどまっている。
そう思うと、メリアには彼女の言葉がブーメランとして刺さっているようにしか思えなかったのだ。
「何かしら?その目は?」
「え、いや……君も人間にしか見えないよなーって」
そう言った瞬間、彼女は一瞬口をパクパクさせた後、顔をトマトのように真っ赤にした。
「あ、貴方ッ……私を侮辱する気!?」
「いや、別に侮辱してるわけじゃないし……そもそも………」
「この、名誉あるドラキー家の四女。ベアトリス・ドラキーを。先祖代々誇りとして受け継いできたこの吸血鬼の血を侮辱する気!?」
「いや、あのだから……吸血鬼なんだ」
言われてみれば、よく見ると彼女の歯は若干犬歯が長いように感じるし、耳の先もとがっているように感じ……うーん。人間じゃね?
ふしゅーふしゅーと、息を荒げる彼女の元へ、リミばあが声をかけた。
「さて……一旦落ち着いたようだし。ベンダー島とリギットそれぞれ1キロづつ、用意できたよ」
彼女が置いた袋を今の今まで空気だったジョセフが受け取った。
ベアトリスはそれを見ると、髪の毛をさっと整える。
「……気分が悪くなったわ。最低。さっさと帰るわよジョセフ」
「あ、はい。お嬢様」
そういうと、彼女はドスドスと足音を荒げながら、店を出て言った。
嵐のように過ぎ去っていった彼女たち……静けさを取り戻した店内。
「ちょっとーリミばあ助けてくれたって良かったじゃんかー」
「うちは商売でやってるからね、彼女の実家のドラキー伯爵家はうちのお得意だし……下手なことは言えんさ。それにお前さんは罵倒でへこたれる玉じゃないじゃあないか」
そう言って、ケロッとした笑顔で泣き言をいうメリアにリミばあはけらけら笑いながら答えたのだった。




