【第一話】壊れた友と魔法使い
「ふぁぁぁ……暇だぁ」
そう言ってメリアはぐでーっとカウンターに体を投げ出した。
「転んだリスの紅茶亭」はいつも通りに閑古鳥が鳴いていた。
小さな国の路地裏にある、こんな錆びれた店に来るもの好きは正直言って少ないわけで。
いつも通りに淡々と、メリアはコーヒーを飲みながら、ぼーっと欠伸をかみ殺していた。
「……暇だし、新しいマジックアイテムの開発でもするかなぁ」
なんて、メリアが呟いた時だった。
カランコロンと、店の扉が開き誰かが入ってきた。
「……おや?いらっしゃい~」
メリアがそう言って扉を見ると、そこにいたのは一人の魔族の男の子だった。
「あの、ここに行けば……人形を直してくれるって……そのっ!」
そう言って男の子はモジモジと背中に隠していた物をメリアに突き出した。
「お願いしますっ!この子を直してください!」
男の子が持っていた人形は、古い所々ほつれた猫の人形だった。
綿はくたびれているし、汚れも目立つ。
そんな猫の人形は、無残に腹が割けて中の綿がこぼれてしまっていた。
「ありゃぁ、これはこれは……」
「その……壊しちゃって……直そうと思ったんだけど直せなくて……」
なれない裁縫をしたのだろう。
そう言う男の子の指には血のにじんだような跡があった。
「お願いします!どうか直して欲しいんです!」
そう言って深々と頭を下げる男の子。
メリアはそんな男の子を見ると、少し考えるそぶりをした後、ニコッと笑って言った。
「いいよ、丁度暇してたし……直してあげる」
「あ、ありがとうございますっ!……あ、そうだお金……」
「良いよ良いよ―これくらいならすぐに……いや、うーん。簡単に治せるからね。明日また取りに来てくれるかい?」
「はいっ!」
そう言って男の子は何処かほっとしたような顔で店を後にした。
「またのご来店を~……さて」
男の子の背中を見送ったメリアは、チラリと猫の人形に目を向けると肩をすくめて立ち上がり、作業場へと運び込んだ………
……次の日。
カランコロンと店の扉が開いた。
「あら、いらっしゃい。待ってたよ」
そう言ってメリアが微笑みかけた相手は、昨日の男の子だった。
男の子はメリアを見ると、モジモジとしながらも要件を伝えた。
「あの……修理って」
「ああ、勿論できてるよ……ほら」
「え、あ……」
そう言ってメリアはカウンター裏から、猫の人形を取り出した。
黄色く変色していた布地は白く輝き、くたびれていた綿はふかふかと元の柔らかさを取り戻していた。
「はい、どうぞ」
「……めっちゃきれいになってる」
勿論ちゃんと敗れた場所は綺麗に塗ってある。破れた後も分からないくらいにだ。
「新品同様、ちゃんときれいに直したから……って言っても、やっぱり布製だからね。大事に使うんだよ?」
「うん!わかった……ありがとう、ねえちゃん!」
「あ、う……うん。うん。わかればよろ……しい」
引きつった笑顔のメリアから猫の人形を受け取ると、男の子は元気になって外に駆け出して行った。
「姉ちゃん……ボク男なんだけどねぇ」
そんな男の子に向けて、メリアは手を振りながら少し悲しそうにつぶやいたのだった。
………その日の午後
メリアは昨日と一緒で相も変わらず暇をしていた。
とはいえ、昨日とは違ってメリアの居室の掃除を終えたテディがすぐそばで、店の掃除をしている。
「そういや、なんかガキから人形の修理の依頼受けたんだって?ただで」
「ふぁぁあ……んー。うん受けたねぇ」
そうメリアが答えると、テディはやれやれと呆れたような目線を向けた。
「お前なぁ、こっちは商売でやってんだからちゃんと金はとらなきゃダメだろ。ガキ相手だってさ」
「むっ……良いじゃないか。別にお金に困ってないしー。それにボクがこの店の店主だぞ。ボクの勝手じゃないかー」
「はいはい、それはそうですね。全く、くまった主人だ」
メリアがそう口をとがらせて言うと、テディはやれやれと肩をすくめた。
「……にしたって、男が可愛い猫の人形何て珍しいよな……ああいうガキはドラゴンとかもっとカッケェ奴がすきなんじゃねえのかね?」
テディがそういうと、カウンターに突っ伏していたメリアが体を起こして答えた。
「まあ人に寄るでしょ~……とはいえ、今回のあの子は別に、可愛い物好きって訳でもなかった気がするけどね」
「ん?そうか?けどあの人形あのガキの……」
そう言いかけたテディの言葉を遮るようにメリアは「チッチッチ」と指を振った。
「あの人形はボクの推理だと……あの子のじゃないと思うよ。あの子の指には自分で直そうとした跡があった。つまり自分で直そうとしたってことだ。」
そう言って、左手で指を立てたままの右手のひじを押さえてメリアは得意げに語る。
「だけど無理だった自分で治せないなら、次に頼るのは親だ。正直あの程度の傷なら僕ほどじゃないとはいえ、そこらの大人なら余裕で修理はできる物だ。親に頼ったら治せない物でもないのに、治していなかった……親には隠してたんだ。そして最後に……」
メリアは腕を組み、ニヤリと笑う。
「昨日あの子はお金を持ってきてた。お金を払ってでも直してほしいという気持ちがあったんだ。あの歳の子が持ってるお金は、僕たちからすると少ないとは言え大金。そんな大金を使ってでも直してほしかった……つまりここから導き出される結論は……」
そういうとメリアは虚空をビシッと指さした。
「ズバリ、喧嘩しちゃって友達のおもちゃを壊しちゃった罪悪感から、親にも言えず、どっかから噂で聞いたおもちゃを直してくれる”お兄さん”に頼った。ってことなんじゃないかな!」
「……お兄さんか、ふっ」
「なんだよ!笑うなよどっからどう見てもお兄さんだろっ!ってか反応するとこそこじゃないだろうがっ!」
「ああ、そうだな、すまない……お兄さん……に、見えないわ」
「なんだとー!」
客足は遠いが騒がしい、魔王城下の路地裏の店。
そんな「転んだリスの紅茶亭」がある路地の先。
男の子と女の子が手を繋いで走り抜けていく。
少し恥ずかしそうな男の子の手を引く、笑顔の女の子の手には白い猫の人形が握られていたのだった。
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