【第十話・前編】郵便屋さんとお手紙と
『転んだリスの紅茶亭』その裏手の扉が、コンコンと鳴った。
テディが扉を開けると、そこには猫がいた。
ただ、猫。と言ってもただの猫ではない。
背丈は、テディと同じくらい。
二足歩行で立って、地面を引きずりそうな大きな肩掛け鞄を下げ帽子をかぶり袖が長いダボダボな服を着た猫だった。
「あのぉ、お届け物です~」
人語を喋ったその猫は、そう言ってテディに配達物を差し出した。
彼は、べリア。
猫のように見えるが、彼もまたれっきとした魔族……ケットシーと呼ばれる存在だった。
人間界では妖精ともいわれるが、この世界の分類としては魔族の一種族にあたる。
「おお、いつも悪いな」
「いえいえ~お仕事ですから~」
彼はそう言って「にゃはは」と可愛らしく笑った。
テディが受け取った配達物は、箱二つと、手紙が一つだった。
「えーっと、サインは何処にすればいい?」
「こちらにお願いします~」
そう言われ、テディはメリアの名字を「さらさらさら」と書き上げた。
「ではではまた~」
そう言って彼はさっそうと塀の上に飛び乗って去って行った。
「身軽なもんだぜ全く……メリア―」
テディは今日もカウンターに座っているメリアの元へとぽむぽむと歩いていく。
いつもいつも閑古鳥が鳴いている『転んだリスの紅茶亭』だが、今日は違う。
「……だから、ボクは嫌だって言ってるでしょうが!」
「結婚式はいつするか、うーん、大々的にしなくてはならないな。だが、まずは……」
「駄目だ、話通じない……」
カウンターにいたのは、メリアともう一人。この国の魔王、ライル・グラファイトがいた。
「まだやってんのかお前ら……」
「テディ、助け……」
「自分でどうにかしろ」
「冷たいなぁ!?」
やれやれと、呆れたように言ったテディはカウンターに荷物を置くといつもの様に箒を手にした。
「ーで、というのも。ーーーそれで」
「って言うか、また掃き掃除?」
「良いだろ、きれいに保つのは良い事だ」
「ーーーで、そしてーーーードレスはー」
「もう塵一つ落ちてないけど?」
「落ちてるだろ……」
そう言うと、テディは箒を肩に担いだ。
「どこに?」
「ここに」
「……ああ」
「ーーーそれで、ん?メリアよ、テディはなぜ我を指さしているのだ?」
そうきょとんとするライルに向け、テディは箒大きく振りかぶり……
「一名様お帰りだ~」
「どえええええ!」
思いっきり振り抜きライルは扉から外へと転がって行った。
「いやー良く飛んでくけど……だいぶ思い切ったことしたねぇ。彼一応この国の魔王だけど?」
「良いだろ、あの馬鹿は……それより、荷物と……あと手紙が届いてたぞ」
「あ、そう。ありが……手紙?誰からだろ」
そう言ってメリアはカウンターに置かれた手紙へ手を伸ばす。
「知らんが、名前は……」
「ノルティ……ってママじゃん!?」
手紙の差出人を見たメリアはそう言って飛び跳ねたのだった。
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