【BR.1】人間嫌いな貴族の少女
ここは西区の貴族街。
空を見上げれば、満月が浮かんだ……明るい夜。
時刻は12時を回ろうとする、その時間。
一人の少女が、窓辺に座って空を眺めていた。
少女の名はベアトリス・ドラキー。
あの日、コーヒー専門店『黒鉄の城』でメリアと出会った、貴族の少女だ。
「……やはり、コーヒーは美味しいですわね」
そう言っている彼女のそばには、何故かメイド服を着た魔族の少年が立っていた。
「ジョセフも飲む?美味しいわよ」
「要らないよ、僕は」
「あら?そう?」
「前飲んだけど、酸っぱくて飲めたもんじゃなかったし」」
ジョセフは軽い口調で彼女にそう言った。
「酸っぱい何て……苦いなら分かるけど変な味覚の持ち主ね……全く」
「……君の味覚の方が変なんじゃないかな」
「……しばくわよ」
「ヒエッ!?」
ギロっと睨まれ、ジョセフは小さく悲鳴を上げた。
「はぁ、まったく失礼しちゃうわ……」というベアトリスは
「……それにしても、まったく。お父様は何時になったら私を国に戻してくれるのかしら?こんな田舎国。さっさと出て帰りたいものなのに」
彼女はむすっとした顔でそう言った。
実は彼女は、この国の貴族ではない。
ドラキー家。
それは、巨大な魔族の帝国の貴族家だ。
「……お父様は、この国と個人的に仲良くしたいとか言っていましたけど、この国にそんな価値何てないわ。ジョセフもそう思うわよね?」
「え、僕は別にそんなことは……」
「思うわよね⁉」
「は、はい!思います!」
威圧をぶつけられ、ジョセフはそうか細い声で叫んだ。
歴史ある貴族。それも吸血鬼の中の吸血鬼であるドラキーの子孫である彼女にとって、この国は理解ができなかった。
通りを歩く、平民の雑多な魔族。
オークにリザードマン、ゴブリン……そう呼ばれ蔑まれる、蛮族とも呼ばれる種族すら国民にするこの国が。
「……それに」
そう言って彼女は『黒鉄の城』で出会ったメリアを思い浮かべた。
「人間すらいる……しかも、貴族街に立ち入りを許可しているだなんて。本当、理解不能だわ」
そういうと彼女は憎々し気にそう言う。
「……一応貴族たちとは話が通じるから、それだけは救いよ。はぁ、なんで人間が……蛮族も人間も下品で品性の欠片も無い、不愉快な存在なのに……本当、汚らわし……何?」
そういう彼女を、ジョセフは何か言いたげな顔で見ていた。
「何?なんか文句あるの?」
「い、いえ!ないです!」
そう言って目をそらし、きょどって声を上げるジョセフ。
そんなかれを見て、まったく「何時も何時も……」とベアトリスはブツブツ言いながら窓の外を眺めた。
「……本当、人間なんて大嫌い」
そう言い捨てる彼女を、ジョセフは何とも言えない表情で眺めていたのだった。




