【第九話】たん瘤二つと、幼馴染と
ダイニングテーブルに座ったメリアは頭を押さえて唸った。
「うぅ……痛いぃ」
「その痛みが、お前への罰だ」
そう言って、泣きそうな顔のメリアの前にテディは冷たく言った。
「うぅ……そんな本気で叩かなくてもよかったじゃんか。見てよ、こんな大きなたん瘤ができて……」
「自業自得だ」
抗議するメリアに対し、テディがそう返したときだった。
コンコンと、扉がノックされる音が響いた。
ノックされたのは店側の扉ではなく、メリアの居住スペースにある……そう、メリアの店には、店側と居住スペース、二つの扉があるのだ。
「てて……はーい……」
メリアは頭をさすりながら、ノックされた扉をガチャリと開けた。
「よっ、メリア」
扉を開けた先にいたのは、メリアの幼馴染の魔族の少女、イザベルだった。
彼女はなぜか傘もささずに濡れており、髪も着ている作業服もびしょぬれだった。
「……こんな雨の日にどうしたのさ、傘もささずに」
「えーっと……」
「まあいいや、とりあえず一旦中に入りなよ。こんな雨の中濡れっぱなしも良くないしさ」
メリアはそういうと、彼女を家に招き入れる。
「あとタオル。濡れたままだと風邪ひくから」
そう言って、メリアは玄関に常備してあったタオルをイザベルに手渡した。
「さんきゅーメリア」
「……それで?」
メリアが尋ねると、イザベルは「あー」っと少し唸る。
「えーっと……いやなに、こうも雨だと日まで暇でしょうがなくてよ」
「ふーん」
早口のイザベルにメリアは怪訝な目を向けた。
「それで、ちょっと遊びに……」
「まーたおやっさんと喧嘩したんだ」
「そうそう、そうなんだよ……ってなんでバレタ!?」
そう言ってぎょっとするイザベルを見て、メリアは「ふっ……」とジト目で笑うと、やれやれと首を振った。
「傘もささずに飛び出してくるって言う事は、少なくとも予定外の外出だったってことだ。少なくとも今日は朝からずっと雨が降ってたし、傘を忘れた何てことは考えられない」
そう言ってメリアはチラッとイザベルを見る。
「……何故おやっさんと喧嘩したかって分かったかっていうと、まず君が来てる服だ。作業服……ってことは仕事中に飛び出してきたって事だろ。仕事中、急に飛び出してくるってなると考えられるのは、きみの場合はたった一つ」
そういうとメリアはビシッとイザベルの鼻先を指し示した。
「おやっさんと喧嘩した。って事しか考えられないんだ……違う?」
「いや、あってる」
「やっぱそうか!」
そういうとパンっと笑顔でメリアは手を叩いた。
「ま、基本的に君が来るときは決まっておやっさんと喧嘩だったってのもあるけど……イヤー予想が当たるのはやっぱり気持ちがいい物だねぇ」
「うんうん」と頷くメリア。
「それにしても、今回は何で喧嘩した……のかは聞かないでおくよ。まあとりあえず落ち着くまでは家でゆっくりしなよ」
「ああ、そうさせてもらうぜ」
そう言ってイザベルは、ダイニングの椅子にどっかり腰かけた。
「……ゆっくりしなよとは言ったけど……まあいいか」
その、遠慮のない様子に何か言いたげだったメリアだったが……まあいいかと、聞くのをやめた。
「おーい、メリア―コーヒー……って、イザベルじゃねえか。お前、まーたおやっさんと喧嘩したのか?」
椅子に座っているイザベルを見て、テディはあきれたようにそう言った。
そんなテディの手には、コーヒーカップが握られている。
少し前、メリアが盛大に失敗したコーヒーを作り直したものだ。
それを見た、メリアはイザベルに尋ねた。
「折角だし……コーヒー飲む?」
「お前のコーヒー酸っぱいしまずいから嫌なんだよ」
「そう?まあいいや、とりあえずテディそれちょうだい」
「ああ、熱いから気を付けて飲めよ」
メリアは、テディからコーヒーを受け取って一口……
「あちゅっ……」
「だから言わんこっちゃない」
呆れるテディを横目に、メリアはふーふーと冷まして改めてコーヒーを飲んだ。
いたっていつもの、美味しいコーヒーだ。
「こんなにおいしいのに……不思議なものだよ」
「私からしてみれば、おいしいのが不思議だよ」
そう言ってイザベルは、美味しそうにコーヒーを飲むメリアを、おかしなものを見る目で見ていたのだった。




