第9話 ダーク、ヘッドロックを炸裂させる
「最近の盗賊は景気がいいですね。銀貨12枚、銅貨10枚も持ってました」
「ふむ」
夕日のオレンジ色に包まれながらローナは戦利品を確認していた。俺は何と言っていいのか分からない。そもそも銀貨1枚で何を買えるのかが分からない。
「宿屋に2ヶ月ほど滞在できそうですね」
何? それは朗報だ! サバイバル生活をしなくてもいいんだな! 正直、湯を沸かすとか、魚を捕るとか、ダルいからな。
ザブザブと川に入ったローナは手に入れた服の洗濯で忙しい。今着ている服はボロボロ過ぎるため、盗賊たちの服に着替えたいらしい。
ローナの洗濯中に俺は手に入れたものを確認する。ショートソード3本、背負い袋が3つ、革の水筒が3つ、リンゴ10個、握り拳くらいのパン6つ、ホールのチーズ1つ手に入った。各リュックの上に毛布が丸められて括り付けられているのも嬉しい。
俺は心底、ほっとした。石の上は冷たかったし、地面からは冷気が上がってくる。毛布は大助かりだ。倒木に座りながら焚き火に薪をくべると、パチパチと火の粉が上がる。何月何日かは分からないけど夏が終わった頃だろう。焚き火がなくても眠れるくらいだ。
そこに、ようやく洗濯を終えたローナが戻ってくる。低木の枝に洗った服を次々にかけていく。それをのんびり眺めながら、これからどうするかについて考えた。
俺の夢は「可愛い彼女とキャッキャ、ウフフな生活を送る」ことだ。森の中にいたのでは彼女が見つけられない。
「ローナ」
「はい、何でしょう。ご主人さま?」
干し終えたローナが俺の隣に腰掛ける。ふわっといい匂いがするかと思ったが、
無臭!
少し気落ちしながら人の多いところに行きたい旨を告げる。
「近くに村がある、と思います」
そうなの?
「私が住んでいた村と、その近くにも集落があったと思います。あくまで聞いただけですけど」
うなだれながらローナが答える。そうか奴隷だったんだよな。そこでローナがいたのとは別の村に行くことにする。ローナはパンを俺に差し出し、ナイフを使ってリンゴの皮を綺麗にむき始める。ウサギさんにはならないものの、かなり丁寧なむき方だ。
「じょ、上手だな」
ぎこちなく褒めると、ローナは照れたように頬を染めていた。
「この程度のことで……過分なお言葉です」
そのまま俺の近くにリンゴを入れた盆を置いた。次はチーズを薄くカットし、これまたお盆に置く。パンにチーズとりんごを挟み、一口、かじる。うん、なかなかいい味のパンだ。
「旨いな」
と言いつつ横を見ると、ローナは既に2つ目のパンと格闘しているところだった。相変わらず頬はハムスターのように膨らんでいる。
「な、モグモグ、何か、んん! 言いました? モグモグ、ご主人さま?」
おい! 仮にもご主人さまより多く食べるってどうなんよ。
でも伸ばした手が細くて、頬もこけているのを見ると何も言えなくなる。まあ、こいつが稼いだみたいなもんだから、好きなだけ食べればいいよ。
って、全部、食いやがった……。
満足そうにお腹を撫でると、そのままコテンと俺の方にもたれかかってくる。俺もそうだけど、こいつも激動の一日だったよな。
俺はローナを抱き抱える。軽い! こんなに軽くて、どうする。
そのまま焚き火の近くにある石の上にそっと寝かせ、さらに毛布を掛けてやる。この世界で知り合いはこいつだけだ。まあ、変な奴だけど、話し相手&案内係として付き合ってもらうか。
赤々と燃える焚き火を見つめ、そう思う。
空を見上げると、星たちが見慣れない並び方をしており、やっぱり異世界なんだと思い知らされるのだった。
§
「……さま、ご主人さま」
身体をつつかれて、俺は思わずもだえてしまう。
「ご主人さま、朝ですよ。不用心ですよ。寝てしまわれるなんて!」
ふふん、とローナは偉そうな態度で俺に説教をかましてきた。おい! 誰かさんがいくら起こしても起きなかったから、朝方までずっと焚き火の番をしてたのを知らないんだな!
俺の目に殺気がこもる!
無言で立ち上がり、素早くローナの横に動いて、ヘッドロック(相手の頭を脇に抱えて締め上げる技)をきめる。きっちり頭が絞まる。
「あ、ご主人さま! 痛いですよ!! 痛!! どうして、頭を絞めるんですか?」
無言のまま閉め続け、俺はローナを懲らしめるのだった。
「ひ、ひどい。従者をこんなめに合わせるなんて」
頭に手を当てて被害者のアピールか! いつから従者になったんだよ。
その瞬間、ぐううと大きな腹の音が響いた。もちろんローナだ! おま、昨日あれだけ食っただろ!
「……お腹がすきました。いつの間にか食べるものがなくなりましたね」
誰のせいだよ! 誰の!
俺は無言でローナの横に回り、2回目のヘッドロックを決める。
「ご主人さま。何で? 何で無言で絞めるんですかあ?」
自分の貧しい胸に聞いてみろと言いたい。小1時間、問い詰めたい。
すったもんだがありつつ、俺たちは村に向かうことになった。そう、もう食べるものがないのである。(不安だが)ローナに先導を頼み、自分が住んでいた村にいかないように念を押す。
「そんなことしませんよう。だいたいですよ。私はご主人さまより年上なんです。どーんと構えてくださいよ」
いや、お前に年上要素を感じたことは一度もないんだが……。
案の定、ローナは道に迷っていた。
「あ、あれえ? 新しい道ができたのかな?」
そんな訳ねえ! 目が泳いだままで笑って誤魔化そうとしてやがる! そうこうして2時間ほど歩いた結果、突然、ある村の外壁にたどり着いた。
そう、ローナが奴隷になっていたコラリ村である。
「あ、あはは。ご主人さま、私の村に来ちゃった……?」
……当然、ヘッドロックが炸裂したのは言うまでもない。




