第8話 ダーク、盗賊と出会う
「ひゃっはあ! こんなところに……って」
「ま、待て! お前!」
お約束の悪者が現れたのだが、俺を見て明らかに怯んでいる。ショートソードを振り上げたまではいいけれど、振り上げた刀をそっと下げてしまう始末だ。それでも刃物を抜かれたら怖い。
警戒のために俺は右手でナイフの柄を握りしめた。
「お、おい! まさか、悪魔のペルケレ族?」
「やべえ奴に会っちまったな」
「あの目つき……どう見ても人殺しの目だろ……」
俺たちと盗賊は顔を見合わせたまま黙ってしまう。3人は俺たちの前でどうしてよいのか分からず相談を始めてしまった。俺はといえば3人のディスる言葉に傷ついていた。
「ど、どうするよ? なかったことにすっか?」
「今更なかったことにできるか? あのツラを見てみろよ。細長い目にボサボサの黒髪、残忍な性格に違いないって!」
「あの女の子だってガリガリじゃん! きっと儀式か何かに使われてんだよ」
何を言ってやがる。どんだけ残虐認定されてんだよ。黙ったままの俺を見ていたリーダーらしき男は頭を振って弱気を吹き飛ばしたようだ。
「もう剣を抜いちまったんだ! 行くしかねえだろ」
「ま、まあな。きっと金を持ってるだろうし」
(ねえよ)
3人は再びショートソードを手に声を張り上げた。
「お、おい、おまえら! 金を出せ!」
そう言いながら俺に向かってきた男たちは、石にけつまづいたのか3人とも顔から地面に倒れてしまう。何だか不自然な動きだな。
ん? 後ろを見るとローナがぶつぶつと何かを唱えている。そうかテレキネシスの魔法を使ったのか! 盗賊の3人は顔から流血して立ち上がろうとするものの、ローナの魔法で頭を押さえつけられ立ち上がれない。それが3人の冷静な判断力を奪ってる。
「ほ、ほら! だからやめとけって言ったんだよ!」
3人の泣き言を聞きながら呆然と立つ俺の後ろから、勇ましい声が響き渡ってきた。
「あなたたち! まさか「暗黒の支配者」さまと分からず襲ってきたんじゃないでしょうね?」
ええ、ローナ? その無理設定を話しちゃうの?
でも明らかに盗賊たちはビビってる。恐ろしげな表情で俺とローナを見つめている。
「そ、そんな……」
「やべえ2つ名だ!」
「どうか、許してください!」
けれどもローナは容赦しない。俺をちらりと見ると跪いて頭を下げる。
「ご主人さま。儀式に使う心臓が3つ手に入りそうです。ナイフでえぐり取ってください!」
何て恐ろしいことを言うの、この子は? ま、まあ、みんな。とりあえず話そうよ。俺が近寄っていくと、誤解した盗賊たちはさらに頭を地面にこすりつける。
「ど、どうかお許しください!!」
「まさか「暗黒の支配者」さまとは思わなかったのです」
「い、命だけは助けてください!!」
え? ただ、話をしたいだけなのに……。
落ち着かせようと俺は3人に声をかけようとすると、ローナがぴしゃりと俺の言葉をさえぎった。
「ダークさま!! 詠唱をお止めください!! 暗黒魔法をお使いになりますと生きた心臓は手に入りません」
「ああああああ、ぜ、全部、差し上げますううううう!」
「暗黒魔法だけは、どうか、どうかあああああ!」
「下着以外全部、差し出します!!!!」
魔法を解かれた3人はパニック状態で服を脱ぎ始めた。そして、ひれ伏したまま頭の上に全てを差し出していた。パンイチ(パンツ1丁)で。それを見下ろしていた俺は、どうしたらいいのか分からず黙ったままだ。けれどもローナは容赦ない。
「あんたたち、ダークさまのお慈悲に感謝することね。こんな失礼なことをしておいて命があるなんて100に1つもないわよ」
盗賊たちは恐ろしさのあまりピクリとも動けない。
「さあ、全てを置いて私たちの前から立ち去りなさい! 馬鹿な真似は金輪際、止めることね!」
3人は立ち上がると、うひゃああと叫び声を上げながら一目散に逃げていった。
ローナはそれを見送りながら俺に確認してくる。
「ご主人さま、本当に逃して良かったのですか? 暗黒魔法を使っても良かったのですよ?」
いやいやいや。俺、そんな物騒なもの使えないからね。目の前に視線を移すと、3人の持ち物がこんもりと積み上がっている。
「パンイチに剥いて全てを奪うなんて。息をするように「外道」の所行をなさる。さすが、ご主人さまですね」
おい!! お前が盗賊を脅したんだろ! 俺は何もしてないじゃん! 俺の咎めるような視線に全く気付かずに、ローナは誇らしげに俺を見上げていた。
「ご主人さま。ついに「暗黒の支配者」の世界征服が始まりましたね」
勝手に物騒なことを言わないでくれる? 俺にそんな夢はないからね?
「ローナ……」
「はっ。申し訳ありません。このローナ、嬉しすぎて、ご主人さまの覇道の始まりを祝ってしまいました。この腐った世界を滅して、新たな世界を創造なさるのですよね」
ええ? 全然違うよ! 俺の願いは「可愛い彼女をつくって、キャッキャ、ウフフ」することなんだよ?
「このローナ、どこまでもお供します」
いや、今すぐ解雇したい。
俺は、ローナを眺めながら本気でそう思うのだった。




