第3話 影道くん、初めての異世界
見えない壁があって、女神的な人の所に行けないいい!!
マジかよ。
どこをどうやっても見えない壁に隙間は見当たらない。それなのに後ろから来た同い年くらいの男は、壁なんてないかのように進んでいったあ! そして、その女神とキャッキャッ、ウフフ的なやりとりをしてる。
あまりの悔しさに血の涙を流した俺は、壁を叩き続けたけれど何も起こらない。
叩くこと1時間。冷静になった俺は少女の方へ向かうことにする。俺はロリコンじゃないけど、あのヤバい目つきの男よりいいだろ、という消去法だ。どう見たってアレは堅気じゃない。
でも少女の前にも壁があったんです……。
うん、何となく分かってた。
あの男一択か。
でも神様。俺、そんなに悪いことしたんすか……。男の方へ歩いて行くと、案の定、すっと入ることができた。
「えらい大変やったなあ。ずっと見てたで」
俺の首に腕を絡めながら、男は輩のように馴れ馴れしく話しかけてくる。
「いやあジブン。ラッキーやでえ!」
どう考えてもラッキーとは思えない。
ニヤリと笑って語りかけてくる男をよく見ると、左目と頬に傷がある。抗争でもあったんですか? という顔つきに、ゴットファーザー的な帽子を被り、スーツも白なんです。まごう事なきアレですよね?
「なんや? ラッキー疑うんか? ほれ、横見てみい!」
親指で示された方に顔を向けると、ちょうど女神の前にいた男が満面の笑みで空中に浮き上がり、パッと消えてしまったところだった。
疑惑しかねえよ。
男の満足そうな笑顔が俺の目に焼き付いた。
「ほら、あの男、こっちを羨ましそうに見てたやろ?」
あんた、眼科に行くことをオススメするぜ! どう見ても120%満足といった表情で、こっちに一瞥もくれなかったぞ!
ゴホンと咳を一つして、腕をほどいた男がイスに座り直した。
「ほな、早速、異世界転生といこか」
え? よっしゃああ! キター! テンプレ展開キター!
若干興奮して頬を上気させながら俺は男の言葉を待った。これから異世界で無双するスキルがもらえるんですよね。うはうはハーレム生活が待ってるんですよね!
男は懐から無造作に3つのカードを取り出した。
「じゃあ異世界で生きていくためのスキルを授けるで。これ、ゴッツええもんやから」
男はすぐにスキルの説明を始める。
「1つ目は「極道」、2つ目は「外道」、3つ目は「邪悪」や。さあ、どれがええ?」
ん? ちょ、ちょっと、ちょっと、ちょっと待って!!
この三択おかしい。絶対、おかしい。どれにもポジティブな意味合いがない!
「このスキルは滅多にもらえんでえ。今まで誰にも渡してへん一級品や!」
いや、誰も選ばなかったの間違いでしょ! 言いたい! 小1時間ほど、問い詰めたい!!!
「この……「極道」って?」
「ああ、それはその通りや。ならず者ってことやな。ジブンも知ってるやろ。〇〇ザやヤ〇〇」
それってスキルなの? あんたのことじゃん!
「じゃあ……「外道」って?」
「ああ、そいつは、人としてどうよっていう非常識なことをする奴ってことやな。これは上位スキルもあって……」
全然、引かれねええええええ。人としてどうよ、なんて最悪じゃん。
「じゃあ、「邪悪」は?」
「いいスキルに目をつけたな。こいつは我がままで、他人を傷つけたりすることに快感を覚えるちゅうことやな。サイコパスっちゅうたら分かりやすいんかな」
最悪だよ……。最早、犯罪者まっしぐらじゃん。
よし、決めた!
「あの……どれもいりません!」
その瞬間、男はギラリと目を光らせる。ひい! 完全に人殺しの目だ。
「スキルなし、やてえ? 異世界にスキルなしでええんか?」
ええんですよ。俺は犯罪者になりたくないからな。
「後悔するでえ。異世界で裸一貫から人生始めるようなもンや。ジブン、それでええんか?」
「はい」
そうきっぱりと断ると、男は急に目を泳がせ始めた。
「い、いや、そう気めつけんでも。別にもろといてもええやン、な?」
絶対いらない、と断ると男は急に俺のズボンにすがりついた。
「た、頼む! このままだと、わて降格してまうんや。嫌やああ。神の地位からおりるのは嫌やあ~」
神だったのか……。いい年の大人が号泣するさまをみて、かわいそうになってきたな……。
ため息をついた俺は、男の手から1枚のカードを抜き取った。
「分かりました。じゃあ、これ、もらいます」
俺は「外道」を抜き取っていた。だって、これ以外の2つは完全にアウトだからね。その瞬間、カードはすうっと消えていった。男は満面の笑みになる。
「やったあ。ついに初めてスキルを選ばれたでえ」
えっ? 初めてなの? やっぱり……。
「ジブン、ありがとうな。お礼にスキル「ちょっと引き寄せ」もつけとくわ」
うわあ、微妙……。何を引き寄せるのか聞こうとすると、
「まあ、どっちもパッシブ効果やから。面倒くさいことあれへんで!」
ん? パッシブ?
「なんやジブン。パッシブ知らんのか? 勝手に発動するっちゅうことや」
待て待て!
勝手に外道が発動されても困るんですけど! キャンセル! いやクーリングオフして!
ええ? 俺の身体が少しずつ浮き上がっていく。
「兄ちゃん、ありがとな。そのスキル使いこなして素晴らしい異世界ライフを!」
待て待て! いい感じにまとめようとすんな! 何だよ、その「やりきった」みたいな顔は! ああ、もうだんだん身体が消えていく!!
そうして俺は意識を失ったのだった。




