第21話 ダーク、倍返しだ!
目的地のユッラス村に着いたのは、もう昼を大分過ぎている頃だった。
依頼されている品物を宿屋に届けるそうで、俺は最後の力を振り絞って店員さんの後ろを歩く。正直、肩が限界なんよ。
「こんにちは~、エッカネンさん。頼まれてたもの持ってきました~」
ここかあ。酒場を併設している宿屋だね。酒はメチャクチャ重かったからねえ。チップ、くれないかな? 店員さんは荷物を綺麗に並べると、代金を受け取り、俺たちに宣言する。
「おつかれさん。これからは無銭飲食なんてすんじゃねえぞ!」
それだけ言うと、とっとと元来た道を帰っていった。
はい、文無し継続~。
がっくりと腰を下ろしている俺たち2人に宿の人たちも声をかけてこない。そりゃそうか。悪魔の眷属、黒髪のペルケレ族と、虹髪奴隷のサテンカーリ族じゃあ、無視だろうな。
「お母さん、このお酒、どこに運ぶの?」
店の奥から何だか若い子の声がする。しかも、どっかで……。俺が視線を移すと、そこには「あの、おっぱ……」いや、にっくきアニーシャがいたのだ!!!!!
ほうほう。俺たちの金を持ち逃げしたくせに、ずいぶん爽やかな笑顔を見せてるじゃん。「にちゃにちゃ」と笑いを浮かべた俺は、ゆっくりとアニーシャに近づいていく。アニーシャは俺たちを見ると真っ青になった。ふふん、これから倍返しだ!!!
まずは善良な旅行者を装う。
「あのお、今日、この宿屋に泊まりたいんですけど」
「え、それは……」
「い・い・で・す・よ・ね?」
固まっているアニーシャの後ろから、アニーシャの父上らしき人が入ってきた。よし、ここはアピールだ!
「あ、アニーシャさんのお父さまですか?」
「そ、そうだが? 君は?」
明らかにペルケレ族を警戒してるな。ここはスマイルだ、ビックスマイルだ。
「わたくしダークと申します。実は以前アニーシャさんと一緒の場所で働いていたことがございまして」
とたんにお父さまの顔がほころんでいく。
「いやあ、そうでしたか。いったい、どんな場所で?」
俺は眉をひそめアニーシャを見つめながら口を開く。
「それがですねえ。実は……」
その瞬間、アニーシャが俺の口をふさぐように話を被せてきた。
「あああああ! そうだ、お父さん。今日、二人を宿に泊めてもいい?」
「もちろんだ。お前がお世話になっているんだからな」
「そうですね。私が稼いだ金を……」
その瞬間、アニーシャは俺の手を引っ張るように、その場から連れ出していた。一番奥の部屋に俺たちを連れて行ったアニーシャは憎々しげな声を出す。
「父さまに話そうとするなんて! あんた……最低!」
その瞬間、俺の怒りが爆発する。
「おいおい、それは聞き捨てならねえな!! お前はその最低以下だって自覚した方がいいぜ。お前のやったことは「窃盗」、つまり泥棒だ」
正論にアニーシャはうつむいて黙り込んだ。こいつ、自分のしたことを忘れたわけじゃあるまいな?
「お前が金を持ち逃げしたせいで、俺はこんな場所まで酒を運んできたんだよ。もう一度言う。お前、最低だな!」
「……じ、事情が……」
「知ったことかよ!」
その時、アニーシャの母親が顔を出す。
「アニー。二人を二階の奥へ案内して。お前がお世話になったんだから、いい部屋にしないとね」
「ありがとうございます。アニーシャさんとは、話したいことがたくさんありますから」
そう笑顔で話し、俺たちはアニーシャに2階の部屋まで案内してもらった。部屋の鍵をガチャリと閉めると、まずはアニーシャに正座するように命令する。
「あんた! 何をするつもり?」
「おいおい、ダークさま、だろ! 口のきき方には気をつけろよ」
「……はい、ダークさま」
アニーシャは大人しく正座した。ナイスシチュエーションだ! 一度はやってみたかったんだ! ローナは頭を振って駄目だこりゃ的な態度を表している。いやいや、何で俺が悪者みたいになってんだよ? ここは倍返しの場面だろうが!
俺はわざとらしく手を上に伸ばす。
「ああ~。昨日から眠らず歩いて疲れたなあ。まくらがほしいなあ」
「そのベッドにあるじゃん!」
「シャーラアアアアアアアップ!!!」
アニーシャに向かってビシッと人差し指を向ける。
「膝枕ですね! が正解だろうが! せめてそれくらい、してもいいんじゃね?」
「は? 何で私がそんな……」
その瞬間、俺は口の横に両手を添えて大声を上げた。
「お母さ~ん。実は娘さんのことで伝えなきゃ……」
「ダ、ダークさま。ど、どうぞ、私の膝を使ってください」
ふふん。ようやく自分の立場が分かったようだな。しかし、そんな俺の様子を見てローナが目をつり上げる。
「外道の振る舞いですよ! ご主人さま……最低!」
「はあ? 何がだよ!」
俺は思わず立ち上がって、アニーシャへ人差し指を向けていた。
「ローナ! 何で俺が最低なんだよ! 最低なのはこいつだろ! 結果的に助けた俺とお前から金貨100枚以上を持ち逃げした奴だぞ。たかが膝枕くらい、何てことないだろ!」
それでもローナは怯まなかった。
「でも、ご主人さま。したくもない膝枕を強要するのは、無理やり娼館や酒場で働かせるのと同じじゃないですか」
くそう。こんな時に正論かよ。
アニーシャを睨み付けている間にローナは俺の横にぴょこんと座る。
「膝枕は私のをお使いください。ご主人さま」
軽く頬を染めて笑顔で俺を見つめてる。
……おい。
その丸太を2本連結した昔の拷問道具みたいなところに、俺の頭をのせろと? 俺、そんなに悪いことしたかよ。俺は無言でローナにデコピンをくらわし、おでこを押さえたローナに宣言する。
「分かった、ローナ。じゃあ、お前がこいつから俺の金貨100枚、お前の金貨20枚を取り戻せよ!!」
「ええ? 何でそうなるんですか? ご主人さまが何か考えてくださいよ」
こいつ、とことん腐ってやがる。
俺とローナが言い争っているうちにアニーシャは仕事があるからと、ドアの外へと逃げていった。
「あ、こら! 待て!!」
そう言って追いかけようとした瞬間、部屋に「ぐううううううう」という大きな音が響き渡った。そこまで大きな音、鳴る? 恥ずかしそうにしているローナを見ながら、俺はため息をつく。
ま、そうだな。肩の力を抜くか……。
腹が減っては、いい知恵も浮かばない。とりあえず、うまいもんでも食いに行くか。




