第20話 ダーク、アルバイト中
「じゃあ、行くぞ」
真っ暗な夜道を店員に先導されながら、俺とローナはポクリポクリと歩いて行く。背中の荷物は結構な重さだ。10kgはあるだろう。しかも歩いている途中、ローナがへばってしまい、俺が15kgぐらいを背負うことになった。
「ごめんさい。ご主人さま」
いいよ。お前、骨と皮ばっかりだもんな。袋を背負い直すと、おお、結構ずしりとくるな。
「最近は肉もついてきたんですよ」
心外そうに話すローナよ、全く肉はついてないぞ。どことは言わんけどな。
俺たちは北側の門を出て夜道をゆっくりと歩く。俺たちが入ってきた南門にはダメ門番がいたけど北側はそうでもなかった。暗くて俺たちの髪が見えにくいのもあったかもだ。
ランプの光を頼りに異世界の夜道を歩く。中々に幻想的だ。現代と違って電気がないために、基本、街以外は真っ暗だ。だから星を近くに感じる。並び方は違ってるけど綺麗なんだ。あまりに上ばっかり見てたもんだから、俺は溝に落ちそうになったくらいだ。
でも、こんな夜に歩いて盗賊が心配じゃないんだろうか? 店員さんに聞いてみる。
「ああ、大丈夫。夜道を歩く奴はいない。盗賊だって寝てるだろ」
そうか? この程度の認識でいいのか? 店員さんはランプをゆらゆらさせながら、ひたすら前を歩いて行く。
道は石畳からただの土に変わっていた。少しずつ黄色やあかね色が混じってくる空を見上げながら、俺はただ歩く。山の向こう側から眩い光が差し込んだ時、俺は思わず手を合わせていた。
「ご主人さま。何ですか、それ?」
「俺が昔いた場所では、太陽に感謝する習慣が残ってたんだ」
「ダーナ教みたいですね」
そう言いながらローナも真似をして手を合わせていた。こいつ素直だよなあ。俺の夢「キャッキャ、ウフフ」だけじゃなくて、こいつの夢も叶えてみるか。
「なあ、ローナ」
「はい。何でしょう?」
「お前、夢はないのか?」
再び歩き出した俺たちに太陽の光が降り注ぐ。今日はいい天気になりそうだ。
「そうですねえ。腹一杯食べること、ですかね」
思わず脱力しそうになる。その俺の表情を見て、ローナはしゃべろうかしゃべるまいか逡巡していた。
「あるなら言えよ」
「……ひ、秘密です」
少しだけ白い頬を紅く染めたローナが照れたように笑う。まあ、早くガリガリ状態を解消しろよ。
「飯にするぞ~」
店員がようやく休憩を宣言した。やれやれ、こいつ夜通し歩かせやがった。
うおおおと雄叫びを上げながら、俺は背負い袋を下ろす。ただ、割れ物が入っているから、そっとだけどな。ローナもゆっくりと下ろして背中を伸ばしていた。
店員は背負い袋から長さ30cmくらいのパンとりんごを3人分取り出して、俺たちに配る。店員さん、いい人っぽいけれども、こいつの食欲を甘く見てる。何もなければいいが……。
いただきますを言ってほんの数十秒でローナは頬を膨らませていた。二重の意味があったに違いない。いつものハムスター頬と「足りない」のアピールだ。俺はリンゴをかじったまま、パンをローナに差し出した。
「お前、足りないだろ。これも食えよ」
ローナはそれを受け取ると、何度も礼を言いながら、すぐにパンにかぶりついていた。
「モグモグ、申し訳、ウンウン、ないです。ダーク、ムシャムシャ」
うん、話さないで食え!
でも、やはり足りないようで店員さんにプレッシャーを与え始める。
「夜通し歩いたら、やっぱりお腹がすいちゃうなあ。暗くて、怖くて、とっても悲しかったなあ……」
嘘つけ! 腹が減ったとこだけ真実だろ。
戸惑った店員さんはパンを1つローナに手渡したんだけど、ローナは無遠慮に店員の背負い袋に視線を送っていた。
「これだと、お昼まで歩けるかなあ」
おい! 店員さんが可哀想じゃねえか! 結局、パン5本、リンゴ5つをせしめたローナだった。
食事の時を除けば、俺たちの旅はおおむね快適だった。ただ眠る時、地面に布を敷いて寝るため身体が痛くなる。この季節、夏が終わったばかりの匂いがしてるんだけど結構寒い。地面から冷えが上ってくるからな。
木の下の焚き火近くに陣取り、店員さんから借りた毛布を広げ、地面に背負い袋を敷く。毛布を折りたたんで、その中に身体を横たえた。やっぱり焚き火はいいね。
目をつぶろうとした瞬間、足元から何かが毛布に入ってきた!!
野犬か?
思い切り蹴飛ばそうとすると、それは貞〇ばりのローナさんでした。俺は黙ったままローナを抱え、焚き火の近くに捨てにいく。
「ご、ご主人さま。待ってください。私、寒いんです。だから……」
焚き火の近くで寒いも何もないだろう。でも抱えているローナがブルブルと震えているのが分かる。そうか……。こいつ、肉がないから寒さに弱いんだな。ま、いいだろう。俺のできることなんて温めてやることぐらいだからな。
「お前の毛布をもってこい」
「は、はい」
下には背負い袋と毛布を1つ敷き、その上に俺たち2人が眠ることになった。上の毛布も2つ折りにして、少しでも温かさを感じられるように工夫する。俺の前にローナを眠らせ、焚き火と俺で暖がとれるようにする。
「わあ、さっきよりも10倍、温かいですよ! ご主人さま」
……ごつごつと当たる骨が痛いぜ!
今なら俺は賢者になれると思う。18才の女の子が俺の前で寝てるっていうのに欲望0。下半身がピクリとも反応しないんですけど。
「……誰かと一緒に寝るって、安心しますね」
そうか……こいつ。
「俺でいいなら、いつでも寝てやるよ。早く寝ろ!」
「はい、お休みなさい」
ごつごつ痛かった骨が少しだけ温かいような気がする。
調子にのったローナは、町に到着するまでずっと俺と一緒に寝るのだった。




