第19話 ダーク、初めての飲酒!
聞けばその女の子、もう帰る場所がないらしい。そう言われてもなあ。
「駄肉女は、ほっとけばいいんです。確か一番金貨を拾ってましたよ!」
ローナは大反対している……。辺りはすっかり暗くなり、人通りも少なくなってきた。泣きそうな女の子をそのままにしておけないよ。
「話を聞こう」
ローナをなだめながら、その女の子がよく知っているという酒場に一緒に行く。
「ダークさま。私、娼館から一番イイお酒を持ってきたんです。飲みましょ!」
「あ、ああ」
ワインボトルを俺のグラスに注いでくるこの子……胸を強調されてますね。近い! 顔近い!! 手に持ったグラスから芳醇な赤ワインの香りが漂う。って、俺、酒は飲んだことがないから口をつけるのに躊躇するぜ。大人の階段を上っちゃうか。
「ほら、ローナちゃんも飲んで」
相変わらずブスッとしたままのローナだったが、とりあえずグラスに酒を注いでもらう。けれども視線はお姉さんの胸を睨み付けている。俺とお姉さんのことが気になるのか、グラスは置いたままだ。
「そう言えば、私、名乗ってませんでしたね。アニーシャっていいます」
間近で見ると胸、本当に凄いッス。男だったら目を離せない。美人さんだし、明るくて話しやすい。グラビアアイドルと飲んでいるような気がするぜ。横を見るとローナは般若のような顔になっている。
「この辺で、一番大きい都市はどこだ?」
「ここから北の宗教都市シルッカですね」
「ふむ」
「私が生まれたのは、その近くの村なんです」
シルッカは、ここキティラの町から北に歩いて2週間ほどの場所にある宗教都市で人口は10万人ほどだと教えてもらう。3ヶ月前に借金のカタとしてゲトリに売られたのだそうだ。
「宗教都市とは?」
アニーシャさんの話では町を治めているのが特定宗教の大司教らしい。で、その宗教というのが、
「フォモール教です」
と、アニーシャさんは即答する。
マジかよ。あの門番が信仰しているクソ宗教か……。じゃ、じゃあ、ダーナ教は?
「ダーナ教はフォモール教の十分の一しか信徒がいません。この大陸の宗教は、10のうちフォモール教が8、シクア教が1、ダーナ教が1の割合です」
ふむ。
このアニーシャって女、娼館で働くような女か? あきらかに高等教育を受けてるって感じだ。元の世界にもいたなあ。ギャルの格好をして実はきっちり塾に通ってるような女が。
このギャップがイイ!
抜群のトーク力とさりげないエロアピール、お酒のすすめ上手で初めての飲酒体験は最高のものになった。
「ダークさま、飲んで飲んで」
その声が次第に遠くなっていった……。
§
「お、お客さん、起きてください! 閉店の時間なんですけど!」
頭が痛い! 二日酔いってこんな感じなのかな? 初めてのお酒は気持ちよく飲めたけど……。ん? アニーシャさんがいない?
「ああ、お連れさまは、とっくに帰りましたよ!」
「ええ? 帰った?」
さあっと頭の血が引いていくのが分かった。帰る場所がないって言ってたはずなのに……。横で爆睡しているローナを横目に見ながら自分の懐をまさぐる。
ない!
俺の引きこもり生活を担保してくれるはずの金貨100枚がないいいいい!!! おいおい、シャレにならねえぞ!
「ローナ! おいローナ!」
机にうつぶせになって寝ているローナの肩をゆすぶる。こんなテンプレみたいな詐欺にあっていいのか? ローナの占いはどうなったんだよ?
「……だ、駄肉。滅すべし……」
フラフラしながらローナが身体を起こす。
「ローナ! お前、金を盗られてないか?」
急に真剣な顔になったローナは、自分の身体や背負い袋を念入りに探している。
「ご、ご主人さま。お、お金がありません!」
「全部か?」
「はい……」
俺も慌てて自分の袋をひっくり返す。ない! 銅貨すらない!! 横に立っている店員の目がどんどん冷たくなってくるのが分かるぜ。
「あ、女の子が支払いを済ませたりは?」
「してません!」
終わった……。
店員は店長を呼んでくるから、ここから動くなと厳命して奥に入っていった。
「だから言ったんですよう。あんな駄肉に騙されて!」
「お前も結構、食べたり、飲んだりしたじゃないか!」
俺たちがもめているところに、熊のような大男が近づいてきた。この40代の「きこり」みたいなごつい男が店主なのか?
「話は聞いた。大変な目にあったようだな。悪魔の眷属も女には弱いんだな」
け、結構やさしい感じがする。あんまり差別もないようだし。こ、これは。
「でもタダ飯はダメだ! ということで、お前たちには飲食の代金銀貨3枚を稼いでもらう」
「稼ぐ?」
さすが個人事業主は甘くないぜ。店主が話すには、脇に抱えている重そうな袋を隣村まで運んでほしいというのだ。
「馬車で運べば盗賊に目をつけられるからな。人が運ぶのが一番いいんだ。隣村までお願いするよ」
「今すぐ?」
「今すぐだ。何でも市長が副市長に拘束されたらしいからな。明日は町への出入りが厳しくなるだろうさ」
それを主導した俺たちが文無しになってアルバイトだなんて。あまりの境遇に目が回りそうだ。
「じゃ、この店員と一緒に届けてくれ。しっかり働けよ!」
ずしりとした袋を背負いながら、俺は思った。
(もう、どうにでもな~れ~)




