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23バッハ バハムートちゃん街デビューpart2と二大アイドル誕生

 その日は朝からイフリートとフェンリルがバイトに行っているので、家にはバハムートちゃんと麒麟ちゃんと魔道士の3人だけである。

「麒麟、ちょっとこい」

 バハムートちゃんが手招きすると、ソファーに座っていた麒麟ちゃんはトタトタと寄ってくる。

「よいか? 今から目を瞑るのだ」

 ?と思いながら言われたまま目を瞑る。もう、すっかりバハムートちゃんを信頼しているようだ。『きらい!』と指さされていた時が懐かしくもある。

 そのままゆっくり肩を押されてどこかに誘導されていく。 よくわからないけど、少しドキドキしていた。

「さ、もう目を開けていいぞ」

 ポンと背中を叩かれてそっと目を開けると、目の前には姿見の鏡があり、そこには自分が映っていた。いつもと違う事に気づく。 肩にはマントがかけられていた。バハムートちゃんと同じモノである。

「これ……?」

「お主も仲間だからな、魔道士に用意させた。 これはすごいぞ、温度調整自動管理してくれるし、何よりもお主を脅威から護ってくれるのだ」

 まるで自分が出したかの様にバハムートちゃんは嬉しそうに語っていた。 言われると身体の周りに風の気流ができていて心地よかった。 魔道士をチラと見ると、まるでどうでもいいと言わんばかりに新聞に目を通している。 そんないつもの光景が不思議と嬉しく、麒麟ちゃんちゃんはほっぺをぽんぽんにさせてお礼を言った。

「よし!では行くぞ!」

 そういうと麒麟ちゃんの手をキュッと握って家の外に出て行く。

「……どこ行くの?」

「お主をみんなに紹介してやろう。我の仲間になったモノは皆そうしておるからな」

 なかま……胸がじんわり温かくなった。

「ねぇ、バハムート……」

「しっ!」

「?!」

 バハムートちゃんが口の前に人差し指をあてると、麒麟ちゃんはあわてて口を押さえる。 人は何故か条件反射でこれをしてしまう不思議。

「我は街では“バッハちゃん”で通っておる。 お主もその様に呼ぶのだ」

「バッハ……ちゃん……?」

「うむ。 世を偲ぶ仮の姿だ。イフリートとフェンリルにもあるぞ」

「!! ボクも! ボクもそういうの欲しい!」

 どこの世界でも憧れるよね〜二つ名とか。ちびっ子なら尚更である。

……ふむ、ここは彼奴らとは違うってセンスあるところを見せつけねばならぬな……バハムートちゃんは顎に手を当てしばし長考に入った。 その横で麒麟ちゃんの瞳がキラキラと輝きジッと待っている事に気づき、プレッシャーがさらにのしかかってきた。

……むぅ、麒麟だから、『リン』というのでは一字無いだけの彼奴らとなんら変わらぬからな……リ、リ……、リリ……リ───

「……そうだ! 『リィン』……はどうだ?」

「リィン……リィン! うん、それがいい!」

 満足気にニッコリしてる麒麟ちゃんに、ふぅやれやれと額の汗を拭って笑うバハムートちゃんであるが、名付けのセンスはどっちもどっちであった。

 

 商店街に着くとみんなが気づいて寄ってくる。麒麟ちゃんはバハムートちゃんの後ろに隠れている。たくさんの大人に囲まれて、俯いたまま少し怯えていた。

「こりゃまたかわいいね〜〜バッハちゃんの友達かい?」

「此奴は……、我の妹分みたいなモノだ!」

「ヘぇ〜お名前は?」

「……リ……リィン……」 か細い声で答える。みんな麒麟ちゃんが怯えない様にかがんだり、しゃがんでくれている。

「偉いね〜ちゃんと言えたね」

 そう言われて頭を撫でられる。恐々顔を上げるとみんな笑顔だった。 ふとみんなの匂いに気づく。優しい、大好きだったおばあちゃんと同じ匂いがした。 麒麟ちゃんの顔に笑みが浮かぶと、みんなもホッとする。 バハムートちゃんも胸を撫で下ろした。

「これからは此奴もここに顔を出す事も多くなる、皆の者よろしく頼むぞ」

「そりゃうれしいな、リィンちゃんよろしくね」

 おっちゃんが嬉しそうに言うとバハムートちゃんは異変に気づく。麒麟ちゃんが真っ青になって震えていた。

「お主……?」

 言い終わらないうちに麒麟ちゃんは逆方向に走って行った。 

「……怖がらせちゃったかな……?」

 おっちゃんは力無く笑う。 みんなも驚かせちゃったかな……とガッカリしていた。

「……そうだ、驚いただけだ。待っておれ、すぐ戻る!」 そう言って麒麟ちゃんの後を追いかけて行く。 麒麟ちゃんは細い路地の所でしゃがんでガタガタ震えていた。

「どうしたのだ? 彼奴らに囲まれてびっくりしたか? ……イヤだったか……?」

 麒麟ちゃんはプルプルと首を横に振る。

「……あの人……ボク、ボクが……酷い事した人……、もう1人の人も……いた……」 その時の事を思い出したのか、ガクガクして目に涙を浮かべていた麒麟ちゃんをそっと後ろから抱きしめてあげる。 夜中に麒麟ちゃんがうなされた時、フェンリルがこうすると落ち着くのを知っていた。

「大丈夫だ、彼奴らは魔道士が治してくれた。記憶も残ってないから安心するのだ」

「……でも、でもボク……悪い事、した……」

「……なら、謝ればいい。 我も一緒に謝ってやろう」

 優しく背中をさすってくれているバハムートちゃんを見ると頷いてくれた。 麒麟ちゃんも頷いた。


 バハムートちゃんが手を引いて麒麟ちゃんと戻ってくると、みんな心配そうに見守る。

「……あ、あの……ボク……」 バハムートちゃんの手をギュッと握ってくる。まだ少し震えていた。

……むぅ、ここはこの我が気の利いた事を言わねばならぬな……

「……あー、皆の者すまぬな、此奴緊張して、そう!しっこしたかったらしい」

 ワハハと笑うバハムートちゃんを「ちがう!」と顔を真っ赤にした麒麟ちゃんがパ────ンして吹っ飛ぶ。 みんなは当然唖然とする。

「痛いではないか!」「うるさい、バカ!」「何を!バカと言う方がバカだぞ!」

 不毛なケンカをしばしみんなが見守る中、その事に気づいた麒麟ちゃんが顔を赤くする。

「……それだけ元気なら、もう大丈夫だな」

 おっちゃんが笑うと、みんなもよかったと笑ってくれた。

「あの……ごめんなさい……」

「いいんだよ、戻ってきてくれてありがとう」

 そう言うとおっちゃんの大きな手で頭を撫でてくれた。

「お腹空いてないかい? さぁ2人ともこっち来て」

 軽食が食べれるテーブルの上には、2人がいない間に沢山の食べ物が用意されていた。

「さぁ、リィンちゃんの歓迎会だ!」

 商店街に来たお客さんも巻き込んで大歓迎会が開かれた。笑顔のみんなを見回すとその中でバハムートちゃんがプリプリしてるのが見えて、何故かおかしくなった。おかしいのに涙が目から溢れてくる。次から次へと、うれしいね、うれしいねって……孤独でいつも寂しかったあの頃の自分、今はこんなにも温かいモノで胸がいっぱいに満たされている。

「ありがとう……!」

 麒麟ちゃんは泣きながら、しかしとびっきりの笑顔でみんなに言った。 その顔を見てバハムートちゃんもようやく笑った。

 街の二大アイドル誕生に歓迎会は大いに盛り上がった。


『 ──ほらね、大丈夫だよ…… 』

 麒麟ちゃんは天を仰ぐ。 どこからか、おばあちゃんの優しい声が聞こえた様な気がした。


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