21バッハ バハムートちゃん大人のナイショ話
前回の歴代1位の日にはまだ少し続きがあった。 宴もたけなわな頃、魔道士が注目と言わんばかりにパン!と手を打つ。
「引っ越しするぞ」
一瞬の沈黙の後、ワッと湧き上がる。
「やったっすね旦那!これでベッド問題も解決っすよ」
「……う、うむ、そうであるな……」
寄ってきたイフリートに肩をたたかれ、曖昧に返事しながらチラチラ魔道士を見る。
……ふむ、もし解決しないままであれば、最悪、我が魔道士と寝てやってもいいと思ったのだがな……あ、あくまで渋々であるがな……イヤイヤの最悪であるぞ
そんなバハムートちゃんを見ながら、イフリートはハハン……と何やら感づき、自分の椅子に戻るとフェンリルにこっそり言う。
「2人っきりの時なんかあったんすかね〜? 旦那なんか可愛くなってるよーな……」
ニヤニヤ言ってると隣の席からピキッと音がして、フェンリルの持っていたグラスにヒビが入る。 その顔は笑顔なのに青筋立ててるという、ある意味女子がしたら1番怖い顔である。 こりゃ旦那も大変だな……と、やれやれと思った。
夜も更けて、ホテルの屋上でイフリートが佇む。 そこに魔道士がやってきた。
「おっ、きたっすね魔道士パイセン。まぁまぁ一杯」
そう言いながら持っていたワインをグラスに注いで渡す。
「未成年の前では飲みにくいっすからね……チビっこ達によこせとか言われかねないしな〜」
魔道士は一口飲んで屋上からの眺めを見る。大人が寝るにはまだ早い時間なので、中心地は灯りが煌めいている。
「旦那の件があるまでは屋上に来ようなんて思わなかったけど、中々いいっすよねーここ、景色もいいし……」
「ナイショ話するにはちょうどいいか?」
一瞬動揺するが、まいったな〜と言わんばかりにイフリートはハハっと笑ってグラスのワインを飲み干す。
「……まぁ、どうせお見通しなんだろうから言っちゃいますけど……ね。 魔道士パイセン、あんたの正体……」
そう言って真っ直ぐな眼で魔道士を見る。 魔道士もイフリートから顔を背けない。
「あんた……救世主ってヤツっすよね……?」
イフリートは目線を街並みに向ける。
「……救世主とか言うと、なんかチープに聞こえなくもないけど、間違いなく、救世主のような……そんなモノ、英雄とか勇者ってのもあるっすね、……多分そういった括りの何かには違いない、……この世界のモノなのか、どこか“他”からきたか……それはわからないっすけどね……」
空いたグラスにワインを注いでニッと笑う。
「じゃなかったら説明つかないっすよ、……あんなデタラメなだらけの事……」
魔道士の異質な強さを思い出し、お手上げみたいな仕草をするイフリートを見てフッと笑う。
「……イフリートは、もっと脳筋かと思ったんだがな……」
そう言ってグラスを空けると、イフリートはチェーっと口を尖らせグラスにワインを注ぐ。
「……目的とかあるんすよね? ……オレらをこんな姿にした意味とか……」
「まぁ待て、焦るな。……今は楽しむんだな。 焦らず、その時がくるまでは……。 “その時”がきたら、例え聞きたくないって言っても、イヤでも聞かせられる事になる。 そうだな……目的ってヤツも、何もかも……な」
魔道士はゆっくりとワイングラスを回しながら言う……それはまるで言い聞かせるかの様に。その声のトーンが変わり、イフリートはコクリと生唾をのんだ。 これ以上はまだ踏み込んではいけない事を察した。
……流石に乗ってはこなかったか───イフリートは観察していた、鋭く、一挙一頭足を、魔道士がここに来た時からずっと……しかし何も変わらなかった。
……でも、間違ってはいない筈だ、確信もある。 だが、正解かは分からない……まぁ、こんなとこっすかね、今のところは……。
……だけど───と魔道士を見る。
もし、魔道士パイセンが、オレの予想の真逆なモノだとしたら……? 救世主とかではなく………
背中をイヤな汗が流れた。自分の考えを否定するかの様に屋上からの景色に目をやる。 そこは他人事の様に煌めいていた……。
───その夜ベッドに就いた魔道士は思う。
“おわり”は思っていたよりも近いかもしれない……と瞼を閉じた。




