20バッハ バハムートちゃん歴代1位の日
その日、バハムートちゃんがお昼寝から覚めると部屋には魔道士しかいなかった。
……ふむ、此奴だけか? 他の彼奴らはどこぞに出掛けたみたいだな。
ベッドから降りて来たバハムートちゃんは、ひとつ大きな欠伸をしながらソファーに寝転がり、新聞を読んでる魔道士を見る。
そういえば此奴と2人きりなんていつ以来だ? なんだかんだと大所帯になったモノだな───とバハムートちゃんは感慨深みに感じ、ふふっと笑う。
……それにしても時とは不思議なモノだな、あの頃は此奴とこうして穏やかに過ごす事など考えもしなかったな。 何せ此奴の事が嫌いで憎くてたまらなかったのに、今はこうして共にいるのが当たり前になっておるとはな。……まぁ、憎たらしいのは今でも変わらぬがな───と苦笑する。
「……さて、と」
そういうと魔道士は新聞を閉じて立ち上がるとバハムートちゃんを見る。
「行くぞ」
「は……?」
「早くしろ、置いてくぞ」 そう言うなりドアの方に向かっていく。
「ま……待つのだ……?」
此奴が外に出るなぞ珍しいな……と思いつつ、慌てて魔道士を追いかける。 ホテルの外に出るとお日様が気持ちよく、ポカポカ日和だった。 魔道士は何も言わずに歩いている。
「どこに行くのだ?」
「……そうだな」
魔道士は突然立ち止まり、しばし考えてからバハムートちゃんを見る。
「お前、どこか連れて行け」
「ん?……どこかって、どこだ?」
「……あるだろ、どこか」
よくわからないが、馴染みのとこを周る事にした。
「ここは商店街だ! 我が懇意にしておる」
バハムートちゃんはえっへんと胸を張る。 そんな彼女にみんなが声を掛けてくる。
「やぁバッハちゃん、こんにちは。 ……そちらの人は見ない顔だね、知り合いかい?」
おっちゃんが不思議そうに魔道士を見ながら声をかけてきた。 バハムートちゃんは一瞬きょとんとした後魔道士を見る。
……そうか、おっちゃんは麒麟の時の記憶を消されたのであったな……しかしまいったぞ、此奴はどうみてもヘンタイにしか見えぬからな……どうしたものか
「……こ、此奴は……そうだな、あれだ……、えと、そうそう! 保護者だ!」
背後からじんわり魔道士の圧を感じた。
「ああ!保護者の方か、バッハちゃんから色々聞いているよ」
「……ほう、色々ですか、それは是非聞かせて頂きたい」
にこやかに話すおっちゃんに魔道士は穏やかに対応しているが、バハムートちゃんへの圧はさらに強まり、ひぃっと青ざめた。
「……あ、あの、これうちの自慢の商品なんです。よかったら食べてください」
そう言って両手に抱え切れないほど持って来たのはタカトだった。 記憶は消されていても、心のどこかで何かが残っていたのかもしれない。
「もちろんうちの商品も食べていってくれよな! バッハちゃんの保護者なら振る舞わないとな」
おっちゃんも嬉しそうに言うと、他の商店街の人達も魔道士を歓迎した。 そんな光景を見てバハムートちゃんは何故か誇らしく思った。
陽はすっかり傾き、夕暮れである。 結局あの後盛り上がり、商店街だけでこの時間までなってしまった。
「他にも連れていきたい所あったんだがのう……彼奴らもお主の事を気に入ったみたいだな。 どうだ?助けてよかったであろう」
満足そうに笑うバハムートちゃんを魔道士が見ている。 それに気付きなんとなく気恥ずかしくなった。
「あ、彼奴らもとは、ち、違うぞ……べ、別に我は……あいたっ?」
夕刻になり道行く人も増えてきてバハムートちゃんは通りすがりの人とぶつかってしまう。 そんなバハムートちゃんの目の前に手が差し出された。 魔道士のモノだった。 バハムートちゃんは信じられないモノでも見た様な顔をする。
「……混んできたからな。 いらないなら、別にいい」
「……う、うむ……スマヌ……」
そっと魔道士の手を握る。その感触に妙に緊張してきた。 ほっぺたは多分ぽんぽんであろう。夕刻であった事を感謝した。 照れ臭さを隠すために口数が増える。
「……あ、あの……、そ、そうだ、名前! お主名は何て言うのだ……?」
ブッと魔道士が吹き出したかと思ったら、大笑いし出した。 それをポカンとバハムートちゃんは見る。
「お、おま……、今更、くくっ……、それ、聞くか……? 出会って、どんだけ経つんだよ、あはははは……!」
まだ笑っていた。どうやらツボに入ったらしい。 そんな魔道士を見てある事に気付く。
……ああ、そうか……、我の中のメスの部分は……此奴の事を、悪く思っていないのだな……
それは恋とよぶにはまだ拙く、くすぐったいような、憧れの様な、そんな不確かなモノであったが、今までに感じた事のない感情だった。
バハムートちゃんは魔道士の手をキュッと握り直した。
ホテルの部屋に帰ると、室内は色とりどりに飾り付けられており、テーブルにはごちそうが並べられていた。
「む? これは……?」
「おかえり旦那、サプライズパーティってヤツっすよ♪」
「おかえりなさいませ、麒麟様が言い出されたのですよ、バハムート様に何かしたいって。 お手伝いもしてくれたのですよ」
「麒麟が……?」
周りを改めて見直すと、装飾の所々に無格好なモノが混ざっていた。 目を細めて眺めていると、ほっぺたをぽんぽんにした麒麟ちゃんがバハムートちゃんにトテトテ近づいてくる。
「あのっ、……あの、ゴメンねっ! そ……それから、色々、あ、ありがとっ……! え、えと、……おかえりっ!」
「魔道士パイセンにも協力してもらったっすよ、夕方まで旦那外に連れ出して欲しいって」
みんなの顔を見る。みんな笑顔だった。魔道士だけは笑っているかよくわからない表情をしていたが、今はそんなの関係ない、みんな笑顔なのだ!
「ただいま! ……ありがとう!」
───この日はバハムートちゃんになってから歴代1位の最高の日だった。




