19バッハ バハムートちゃんはじめての家出
バハムートちゃんは面白くなかった。 こいついっつも冒頭面白くないなと思うリーダもいるであろう。でも仕方ないのだ。面白くない時に面白いとは言えないからだ。 では面白くない理由をみてみよう。
バハムートちゃんのジト目の先にはイフリートと麒麟ちゃんがいる。 ソファーに座ってるイフリートの膝の上にちょこんと麒麟ちゃんが座っていて、うれしそうに足をプランプランさせている。 ついこの間までイフリート嫌い!って言ってたくせにこの変わり様である。
「お主、イフリートの事ヤダと言っていたのではなかったか?」 トゲっとバハムートちゃんは言う。
「……イフリート、ママみあるからいいの!」
「えーママみっすか〜、カッコいいって言われる方がいいな〜〜」
「イフリートかっこいい!」
「……う〜麒麟様、かわいすぎっすよ〜〜、もーこちょこちょしちゃう!」
そう言いながら自分の膝の上に座る麒麟ちゃんをこちょこちょすると、うれしそうにキャッキャする。
……此奴チョロすぎであろう……バハムートちゃんはますますトゲトゲしてくる。 だが仕方ないのだ。麒麟ちゃんのボッチの歴の長さを舐めてはいけない。優しさ免疫ほぼ皆無と言っていい程の饑餓状態だったので、ちょっとでも優しくされたらそりゃチョロくもなるよね。 生まれたての雛のすりこみ並みに効果的面なのだ。
「コラ、イフリートあまり麒麟様に失礼な事をするなよ」
そう言いながらもその目は口ほど厳しくない。 そんな3人をみてバハムートちゃんは複雑な気分になる。
……そこは、我の────
「それにしても困ったっすね〜、ベッド……」 イフリートはそう言いながら2つのベッドを見る。
今まで何度か議題に上がったベッド足りない問題である。フェンリルがうやむやにしたまま今までは何とかなっていたが、さらに1人増えたとなると問題は深刻である。ちなみに今は1つのベッドを魔道士が使い、もう1つをバハムートちゃんと麒麟ちゃん、ソファーをフェンリル、イフリートは椅子に座ったままか、床にごろ寝か、騙し騙し寝ている状態である。
「だいじょうぶ!」
そういうと麒麟ちゃんはイフリートの膝の上からピョンコと降りて床に横になって丸まる。
「ボク、こうやって寝れるから平気」
その姿を見たイフリートとフェンリルはブワッときながら駆け寄る。
「いいんすよ、麒麟様はベッドで寝てください!」
「そうですよ、床はイフリートでじゅうぶんです!」
え?、と白目でフェンリルを見るが無視される。
「……でも」
「あーならソファーで寝るオレの上にフェンリルが寝ればいいっすよ」
ニヒヒと笑うイフリートの顔面にフェンリルの拳がめり込む。 まぁそうなるよね。
「ならば、あそこはどうだ? 魔道士の隣は空いておるぞ」
バハムートちゃんが意地悪っぽく言うと麒麟ちゃんは魔道士を見る。魔道士からゴゴゴゴ……とエフェクトでている。
麒麟ちゃんは怯えて顔を強張らせ、うわ〜〜〜んと泣き出す。そりゃもう号泣である。 バハムートちゃんも狼狽せずにはいられない。
「旦那!そりゃないっすよ!! ひどいっすよ!」
「バハムート様、それはなりません! いくらバハムート様でもメ!ですよ!」
2人は間違っていないのだが、ここでのバハムートちゃんに対しては間違っていた。 恋愛ゲームのイベント選択肢ならバッドエンディング直行で即打ち切られるヤツである。
「どチクショ────────────!!!」 バハムートちゃんは泣きながら飛び出して行ってしまった。
予想だにしなかった反応に固まってしまった2人は出遅れてしまい、急いで追いかけていったがホテルを出たとこでバハムートちゃんの姿は既になかった。
外はもう日が暮れて夜になりかけていた。 それから暫くしてもバハムートちゃんは帰ってくる事はなかった。 既に幼女が出歩いていい時間では無くなっていた。いくらバハムートちゃんがこの街の人々と仲が良いと言っても、それはあくまでも街に住んでいる人達である。 割と大きいこの街は流通なども盛んで娯楽施設なども充実しており、夜になると外から来る人も増えるのだ。 余所者が増えると言う事は、つまり安全とは言えなくなる。 そんな中バハムートちゃんはどこに居るのだろう?
バハムートちゃんはどこかの屋上の隅でくすんくすん泣いていた。 屋上?どこの? そこは自分のホテルの屋上であった。 これは流石に盲点である。
イフリートとフェンリルに責められた事が、まだショックだった。 あの2人は何があっても絶対自分の味方でいてくれる、そう自負があったのに麒麟ちゃんの味方をした。自分の配下2人に裏切られた気分のバハムートちゃんは悲しくて仕方がなかった。
「……彼奴ら、精々探し回るといいのだ! そもそも麒麟を甘やかしすぎなのだ……確かに彼奴は可哀想な身の上で、……我よりもおチビだが、それでも………」
お腹の虫が鳴いた。 この様な時でもお腹空くのだな……とバハムートちゃんは久々に高速ラーニングした。 おっちゃんのとこに行けばよかったものか、でもそうしたらすぐ見つかるだろうし───とグヌヌしていた。 外は夜になりどんどん気温も下がってきて、気分も滅入ってお腹もペコペコ、冷えてきた身体を摩りながら、思考は自然と悪い方に行く。
「……もし、我を探していなかったらどうしよう、イヤ、そんな筈はない……だが、我がいなくなっても、気にも留めていないとしたら……ベッド問題も解決して、むしろ喜んでおるやもしれない……我がいなくなってせいせいしていたら、我は、我は……?、どこに帰ったらいいのだ……?」
3人が仲睦まじくしていた様を思い出すと、大きな眼に涙が溢れてくる。
「こんなとこでお前は何してるんだ?」
気づいたら魔道士がいつの間にか側に立っていた。 迎えにきてくれたのかもしれないと、ちょっとだけ胸がほんわかした。
「……わ、我は帰らぬぞ! 彼奴らが、悪いのだ……」 勝手言ってるのは自分が1番わかっている。それでも引けない時はあるのだ。 魔道士が円を描くとそこには街並みが映り、さらに人が映る……焦り顔のイフリートと泣いてるフェンリルにイフリートに抱えられてベソかいてる麒麟ちゃんがいた。
「ダメだ、旦那あっちにはいないな……」
「……わ、わたくしが悪いのだ、……わたくしのせいで、バハムート様は……わたくしは……お側にいるの失格だ……わたくしなんか……」
「……落ち着けフェンリル。 麒麟様、旦那の匂いまだわからないっすか……?」
「んーん……、知らない匂い増えて、色んな匂い混じってて、わかりにくい……ボク、役立たず……」
泣きじゃくるフェンリルを見て麒麟ちゃんも泣き出す。 それを見ているバハムートちゃんもうるうるしていた。
「お前がここで悠長に座っている間に、あいつらは何も食べずにこんな時間まで街中走り回ってるぞ」
バハムートちゃんは目をうるうるさせながらも笑っていた。 申し訳なく思う以上に別の感情でいっぱいになっていた……そう、うれしかったのだ。
「どうするんだ?」
「……なぁ、魔道士……、1人じゃあれだから、その……ついて来て、くれぬか……?」
意外な事に魔道士はついて来てくれた。行く途中に心細くて、手も握ってはくれぬか?と頼んだが、それは断固拒否された。 近づくにつれ妙に緊張するが、最初の一言はもう決まっている。 みんなが見え出してバハムートちゃんは駆け出した。 向こうも気付き駆け寄る。 みんな泣きながら笑っていた。
「……らしくなってきたんじゃねぇの? 『人間』に……」
みんなを遠巻きで見ながら、そんな魔道士の独り言を夜風が攫っていった。




