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18バッハ バハムートちゃんこぼれ話とぽんぽんほっぺ

 とある日の午後、麒麟ちゃんはお昼寝から目を覚ます。 ベッドからのそのそ降りると、トテトテと寝ぼけ眼を擦りながら歩いてくる。

「おっ、麒麟様おきた? お腹すいたっしょ?なんか作りますね」

 ソファーで横になりながら雑誌を読んでいたイフリートが気づいて身体を起こす。 麒麟ちゃんはキョロキョロ周りを見ていたが、何かを思ってかトタトタと色んな所を探し出す。

 トイレのドアや風呂場のドア、タンスも開けたりしている。魔道士の周りを何気に避けているのは、まだトラウマの根っこが深いようだ。 

「……いない」 

「あ〜〜、旦那とフェンリルなら買い出しに行ってるっすよ。 あと小一時間もしたら帰ってくるかな」

「ボクもいく!」 そう言うと、トテトテドアまで走り出すがフラついた所をイフリートに支えられる。

「あ〜ダメっすよ、麒麟様はまだ本調子じゃないっすからね、ちゃんとお休みしていないと」

 ヒョイっとイフリートに抱え上げられるとプクっとかわいいホッペをふくらませる。

「……ボク、置いてかれた……」

 椅子に座らされてしょんぼりしている麒麟ちゃんにイフリートはマグカップに入ったミルクを持ってきてあげる。

「すぐできるから、これ飲んで待ってて下さいね」

 イフリートがキッチンに行って暫くすると、甘いいい匂いがしてきた。 クンクンするとお腹の虫がかわいく鳴き出して、お腹が空いていたことに気づく。

「はい、できましたよ〜〜」

 テーブルに置かれたのはホカホカのパンケーキ。 上にはチョコやジャムを使ってデコされていた。

「おぉぉぉおおおおお」 美味しそうなパンケーキを目にして、麒麟ちゃんの瞳がキラキラと輝き出す。

「これは!これはナニ? それに上、上に不思議なモノが描いてある」

「これはパンケーキっていう食べ物っすよ。 描いてあるのは……まぁ、麒麟様描いてみたんすけどね……」

 ハハッとイフリートは苦笑する。 お世辞にも上手く描けてなく、麒麟とわかるのは角位である。 それでも麒麟ちゃんはふふっと嬉しそうに頬を染めた。 そのままじっとパンケーキを見つめている。食べ方がわからないのであろう。

「これは、こうやってチョキチョキ〜って切り分けるっすよ」 そう言うとフォークとナイフを使って器用に切り分けていき、一切れフォークで刺し麒麟ちゃんに差し出す。

「さ、どうぞ。 あ、でもまだ少し熱いからフーフーして下さいね」

「ふーふー?」

「こうやってフーフーして少し冷ましてから食べるんすよ」 言いながらパンケーキをフーフーすると、麒麟ちゃんもマネしてフーフーしてパクッと頬張る。 麒麟ちゃんの瞳が更に輝きを増した。美味しいみたいだ。 イフリートがフォークを渡すと拙いながらもニコニコとパンケーキを食べ出した。そんな麒麟ちゃんをイフリートは微笑ましく見ている。 しかし何故かその動きがピタッと止まる。さっきまでニコニコしていた笑顔もなかった。

「どうしたんすか?何か……」

「……お前、ボクの事……怖くないの? ボク、ひどい事、した……」

 しばし沈黙が流れる。

「……そうっすね〜〜」

 そう言いながら麒麟ちゃんのほっぺたについてるパンケーキのかけらをヒョイっと取ってパクッと自分の口に入れる。

「確かにあの時の黒い麒麟様は怖かったけど、今はもう違うからな〜〜」

 麒麟ちゃんはまだ俯いている。

「……麒麟様はどうしてああなったか分かります?」

「……わからない、……気づいたら、アレになってた……」 麒麟ちゃんは俯いたままプルプル首を振った。

「そっか……」 イフリートは少し考えた後口を開く。

「……実はね、あの後、麒麟様はかなりヤバかったんすよ……」

──あの後、麒麟ちゃんを今の姿に変えた時の事である……少し時間を遡るとしよう。


「どういうことだ?此奴は助からないだと?!」

 人型になった麒麟ちゃんは目を覚まさず、意識のない中苦しそうにそのまま横たわったままである。

「見ろ、コイツの肌を。 この黒いヤツ、これは呪術だ。ここまで侵食されていては手遅れだ」

 麒麟ちゃんの肌の殆どは黒くなっていた。

「そ、そう言って、お主の事だからどうせ何とか出来るのであろう、勿体ぶらずに……」

「呪術は掛けたモノにしか解除はできない、例えオレが万能であっても無理だ」

「それでは……」

 戦いの中での麒麟の悲しみを思い出す。自分のせいで優しかった麒麟をこの様にしてしまった事。絶望して、悲しいまま……このまま死なす訳にはいかなかった。 バハムートちゃんの目に涙が浮かんだけど、グイッとそれを拭う。

「それでも、なんとかしろ! お主ならば出来るはずだ!!」

 力強い眼で魔道士を見つめる。 フゥっと諦めたかの様に魔道士は息を吐くと、指で紋を描き出す。山吹色のキラキラしたモノが麒麟ちゃんを取り囲み、一瞬強く輝いたと思ったら麒麟ちゃんの肌は普通の色になっていた。 バハムートちゃん達の表情がパッと明るくなる。

「先に言っておくが、これは治った訳ではない。呪術の進行を止めているだけで、見た目ではわからないが現状ではさっきの蝕まれたままだ。 今は辛うじて生きてるが、次にまたコイツが強く黒い感情に捕らわれる事があれば、その時はお終いだ」

「『今』は生きておられるのだな。 ならばいい、今のところはな!」 バハムートちゃんはニカっと笑った。


「……そっか、バハムートが……」

「呪術は術者が見つかればなんとかなるみたいだけど、少なくとも今はここの大陸にはいないらしいっす。 だから、今麒麟様が出来る事はたくさん食べて早く元気になる事っすよ」

「……ボク、ここにいていいのかな? バハムート……ボクの事怒ってない?」

「だったらすればいいんですよ、旦那がしたみたく、ね」 イフリートがウインクする。

──バハムートがしてくれた事……麒麟ちゃんはあの日の事を思い出す。 最高位で誇り高い精獣が頭を下げてくれた。それも殺そうとしていた自分にだ。

 麒麟ちゃんは少し考えた後コクンと頷いて、嬉しそうにパンケーキを食べ出した。


 それから暫くしてバハムートちゃんとフェンリルは荷物を抱えて帰ってきた。 麒麟ちゃんはイフリートの後ろに隠れる様にしてモジモジしていた。

「なんだお主ら、すっかり仲良しだな」 

 嫌味っぽく言うバハムートちゃんの所にトテトテ麒麟ちゃんがほっぺを赤くして駆け寄ってくる。 不思議に思ったフェンリルがイフリートを見ると、目があった後に麒麟ちゃんに目線を送ってウインクしてきた。何となく察したフェンリルは一歩下がって優しく2人を見守る。

「あの、あのっ……、えっと……あのね!……」 ほっぺたをぽんぽんに真っ赤にして言い淀んでいる麒麟ちゃんをイフリートとフェンリルはガンバレ!と心の中で応援した。

「なんだお主、気味の悪い。何を企んでおるのだ? 言っておくがお主にはお土産などないぞ!フェンリルもやらんし、な〜〜〜んもやらぬわ!」

 ワハハと高笑いするバハムートちゃんは麒麟ちゃんの渾身のパ──ンをくらって吹っ飛んだ。 まぁこれはバハムートちゃんが悪いよね。

 ほっぺたおさえて憤怒してるバハムートちゃんに麒麟ちゃんはコッソリ心の中で言った。

『 ゴメンね 』

 いつか本人に言えるといいね。


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