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16バッハ バハムートちゃん急からのプニプニ

 麒麟はずっと孤独だった。その優しい気性からか下に付く精獣は少なく、その強さからは人々からは畏怖され遠ざかれていた。

長い長い、気の遠くなる様な長い間、毎日ただ寂しいだけ、そんな事を他の精獣には言えるわけもなく、ボクはいつまでこのままなんだろう?……いつ死ねるんだろう?───と、そんな事を思う様になっていた。

 ある日気付く、脚の不自由なおばあさんが何かを持って自分のテリトリーの山に毎日通っている事に。 何してるんだろう? 雨の日も風の日も毎日来るおばあさんに麒麟は興味深々だった。 それは自分への供物だった。 その日から麒麟は雨が強い日は雨雲がおばあさんを濡らさない様にそこだけいかないように気象を操作したり、逆に天気の日はおばあさんが暑くない様にそっと雲を置いてあげた。獣魔達にもおばあさんが驚かない様にお願いした。 そんな奇妙な日々がしばらく続いた………そしてそんな日々の中で麒麟は初めての感情に気づいた。 おばあさんが山に来るのを心待ちにする様になっていた自分に……だが同時に畏れてもいた。 もし見つかって、おばあさんに怖がられて2度とここに来なくなってしまう事を……おばあさんに嫌われてしまう事を何よりも怖がった。


 だが、ある日見つかってしまう。 

……またあの眼をされる……人々が自分を見た時に必ずする恐怖に満ちた化け物を見る眼を。 だけどおばあさんは違かった。優しい眼をして笑いかけてくれて、そこにしゃがんで手を合わせてくれた。 まるで神様にするように………2人は友達になった。

 その日から色んな話をした。町をバハムートに襲われた事、息子さん達を亡くされた事、それは自分の精獣様に対する信仰が足りなかったのだとバハムートを責めなかった。

「ボク、バハムートやだ。すぐ暴れるんだよ、声も大きいしうるさい」

「麒麟様は優しいからね」 おばあちゃんは優しく微笑む。

「ボクは、そんな優しくなんか……精獣はホントは優しくちゃダメなんだ……だからボクの側には誰もいない……」

「ばあちゃんは知ってるよ、仲良くなる前からね。 天気もそうだけど、道に邪魔な岩があればどかしてくれたり、ばあちゃんが休憩するところに木の実を置いておいてくれたり、本当に優しいお方だよ。 大丈夫、麒麟様の優しさを好いてくれる人はちゃあんといるよ」

 麒麟の身体を優しく撫でてくれる。 麒麟は何よりもこの手が好きだった。

「おばあちゃんがいればいい」 そっと擦り寄る。優しい匂いがした。

 果てしなく長い間、麒麟が生きてきた中でこの数日間はかけがえのないモノとなった。


───人は自分と違うモノはとかく嫌いがちである。 とくにそれが集団ともなれば如実に現れる。 精獣の元に脚繁く通うおばあさんは町人に疎まれていた。ただでさえ余所者だったところに、精獣達と何か画策してるという悪い噂も流れ出した……それでもおばあさんはみんなのためにと山へと登る。 もうイクスの町でのような事が起こらないようにと。精獣様のご加護が在らん事を……と。

 しかし、一度歪んでしまった感情は負の方へと加速していき、濁流の如く人々はそれに呑み込まれてしまった。 おばあさんが町人達に断罪されたのは数日後だった………


「………おばあちゃん……」

 麒麟の目から涙が溢れる、長い睫毛が動いてフッと目を覚ます。 なんだかわからないフカフカなモノに麒麟は寝ていた。 ぼんやりと辺りを見回す。

「気づかれました! 麒麟様が目を覚まされました」

 ベッドの側の椅子に座っていたフェンリルがみんなに声をかける。 コイツは確か……と麒麟は記憶を探る……確かバハムートと一緒にいたヤツだ。

 ニュッと寝てる視界にバハムートちゃんが入ってくる。

 バハムート……?! そうか……ボクは負けたんだね……と思っているところにニカっと笑いかけられる。

「見ろ!お主ら此奴のこの姿を!!」 バハムートちゃんは嬉しそうに麒麟を指差すと、ハイハイとイフリートも来る。

 ?………この姿?

 自身を両手で触るとプニっとした。驚いてベッドの上に飛び起きる────可愛らしい幼女がそこにいた。

 ???と青ざめて一心不乱に自分の身体をプニプニしてる麒麟を他所に、バハムートちゃんは大声を出してはしゃいでる。 コイツやっぱうるさいな……と麒麟はトゲっとした。

「わ────────っははははははは!! 魔道士よ、お主やればできるではないか!コレだよコレ!コレを待っておったのだ!!見ろ此奴、我よりおチビだぞ!!!」

 魔道士は全力無視で新聞を読んでいる。 前回ラストで2人の絆みたいなモノをちょっとだけ感じたが、今は微塵も感じられなかった。

「お主が目覚めるまではそういう空気では無かったからな、ず〜〜っと、ず〜〜〜〜っと我慢しておったが、愉快愉快!!」

「うるさい!」と言って麒麟がバハムートちゃんのほっぺをパ──ン!と平手で叩く。 ぶべっ?っとバハムートちゃんは軽めに吹っ飛んだ。 イフリートとフェンリルは唖然としてる。

「な、何をするのだ……?」 涙目である。 麒麟はバハムートちゃんに指を刺しながら言う。

「お前キライ!」 続け様にイフリートを指差す。「お前もキライ!」 さらにフェンリルに指差す。「お前は─────、まぁいい……」 悪くないらしい。

「なんなんすか旦那、このおチビは?」 面白くなかった、そりゃそうだ。 バハムートちゃんも叩かれたほっぺを抑えてグヌヌしていた。

「じゃあ、麒麟様、この人は?」 イフリートが麒麟のちっこい手を持って魔道士を指差す。

 見た瞬間フルボッコされたトラウマが蘇ったのか、解読不明な奇声をあげながら毛布に包まりガタガタ震え出した。 イフリートは二ヒヒと笑った。

「いじめるな!」とイフリートはフェンリルに小突かれる。

「大丈夫ですよ、麒麟様」

 フェンリルはそういうとベッドの脇に座り、毛布の上から麒麟を優しく撫でてあげた。 その感触は懐かしいモノであった。 麒麟はヒョコっと顔を出したと思ったら、そのままフェンリルにクンクンした後、正面からキュっと抱きついた。

「あ────────────────────────────?!!!」 バハムートちゃんとイフリートから同時に声が出た。

「お前、いい匂いする……おばあちゃんとおんなじ匂い……お前、スキ……」 そう言ってほっぺを染めてそっと目を閉じた。

「バカかお主? フェンリルは女子だぞ!婆さんと同じ匂いである筈ないであろう? ふざけとるのか?!」

「黙れ!」と言って、パ──ン!と今度は逆の方のほっぺを叩く。 バハムートちゃんの両のほっぺは叩かれて真っ赤になっている。涙目でプルプル震えながら、こんなヤツ助けるのではなかった!と後悔するのであった。


───こうして新たな仲間?が加わったのである。


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