14バッハ バハムートちゃん序からの破
その日バハムートちゃんはお昼寝も終わって、毎日のルーティンの街へ行く。 他の2人はバイトに行っているので今日は1人での重役出勤である。
───街に着くと商店街は俄かに騒然としていた。
「どうしたのだ?騒がしいのう」
「……あっ、バッハちゃん大変だよ! タイさん……串焼き屋の旦那達がケガしたんだ……」
それを聞いて急いでおっちゃんのところに行くと、腕に包帯を巻きアームホルダーで固定されていて、擦り傷だらけのおっちゃんが病院の入り口の脇で頭を抱えて下を向いていた。
「どうした? 何があったのだ?!」
「……あぁ、バッハちゃん──それが……何が起こったかさっぱりなんだ? 昼過ぎに隣街へ会合に行く用事があって、街を出てしばらくしたら、いきなり……黒い何かが動いたと思ったら、一瞬光って……気づいたらこうなってたんだ……」
おっちゃんはそれを思い出したせいか震えていた。
「オレは……まだいい方なんだ───タカトくんが……オレを庇って──あんな姿に………」
ドアを開けて入ってみると人の焦げた匂いがした。見てはいけないと止められたが振り切って病室に走った。 中に入ったら、肌が焼け爛れた人とよんでいいのかわからないモノがベッドに横たわっていた。 かろうじて呼吸はしている。 その人の元気な姿を思い出す……初めて街に行った時、おっちゃんと一緒に歓迎してくれた人だった。
「……せ、先生……が、もう、どうにもならないって、高額な魔法を使ったとしてもダメだって………この間、娘さんが産まれたばっかだっていうのに────」
おっちゃんが咽び泣きながら言う。
「待っておれ!! 我が何とかする!! いいか、待っておるのだぞ!!」
そういうとバハムートちゃんは病院を飛び出して必死に駆けて行った───向かう場所は1つしかない。 走りながらも、何故か次々溢れ出てくる涙を不思議に思いながら拭っていた。
「───それで?」
目を真っ赤にして、息も絶え絶えホテルの部屋に駆け込んで事情を伝えたが、魔導士の反応は予想だにしないモノであった───当の本人は我関せずと新聞を見ている。
「……それで……って、人が……大ケガしてるんだぞ───お主ならなんとかできるだろう! 急がねば……」
「何でオレが何とかしないといけないんだ?」
「……お、お主、……お主は!正義の味方ではないのか?!」
「知らねーよ、正義の味方は便利屋じゃねぇんだよ」
「…お主…お主だって、彼奴の作ったモノ、美味い……と、……美味いって、何度も食べたではないか!!」
バハムートちゃんの目から大きな涙の粒がポロポロと溢れてくる──魔導士は気にも留めない。
「……頼む、あのモノを……救ってやってくれ───頼むから!! ……頼む……」
魔道士の外套を掴んで縋る。 顔を涙でくちゃくちゃにしながらも、バハムートちゃんは諦めなかった。
「……何でお前はそんなに頼むんだ?」
「……なん、で?………」
街のみんなの笑顔が浮かぶ……
「知らぬ! でも、生きてほしいのだ!! あのモノ達に笑ってほしいのだ!!」
自分で言ってておかしいのは自分が1番わかっている───こんなの最恐の精獣が吐く台詞ではないと……それでも……
突如、魔道士に襟首をムンズと掴まれて持ち上げられ、そのままドアの方に歩いて行かれる。
……此奴、我を追い出すつもりか? 負けぬぞ!我は負けぬ、……約束したのだ───バハムートちゃんは必死に手足をバタつかせて抵抗する。
「おい、コラ暴れんな!」
「黙れ!お主がわかったっていうまで………」
「わかったよ、だから暴れんな」
ポカンと魔道士を見る。
「こうして抱えて行った方が早い、早く場所を言え」
バハムートちゃんと魔道士が病院に着いた時には、タカトはもはや呼吸も浅くなっていて危険な状態だった。 魔道士がベッドの脇に行くと、ちょうどそこに話を聞いて駆けつけたイフリートとフェンリルが部屋に飛び込んで来た。
「成る程な、これは普通の魔法では無理だな……」
詠唱が始まった。 翠色の優しい光が部屋に満ちてくる。 最初に異変に気づいたのは串焼き屋のおっちゃんだった。 腕の違和感に気付く……治っていた。 ベッドに目を向けると焼け爛れた皮膚がパラパラ光りながら剥がれていき上へと舞っては消えていく、その下から正常な肌が見えてきた───その神秘的で幻想的な光景の中誰一人、口を開けなかった。
柔らかい光が収まると、ベッドでは瀕死だった筈の肉塊だったモノが元通りの人として呼吸をして寝ていた。
「……あ、あんたは─── 一体……?」
おっちゃんが戸惑いながら魔道士に声をかけると、魔導士はパチンと指を鳴らす。 そこから波紋が拡がるように、衝撃波みたいなモノが一気に街中を駆け抜けた。 おっちゃんはクタリとその場に崩れ落ちる。他の人達も同じ事になっているだろう。
「……おいお主? 一体何を……」
「慌てるな、すぐ目を覚ます。 オレ達以外、昼過ぎから今までのこの街のモノの記憶を全て消した」
ふむ?なるほど───とあまり気にせずベッドの横で喜んでぴょんぴょん跳ねてるバハムートちゃんとは対照的に、事なげもなくやってのけたけど、その異常さにイフリートとフェンリルは青ざめて冷や汗をかいていた。
──こいつ……なんて───ありえない、こんな事……。 ……わかってしまった──魔道士の正体を……、まだ確証はないけど、多分間違いない……。 フェンリルも恐らく勘づいているだろう……。 オレらなんかが敵うわけなかったんだ……旦那、こいつマジでとんでもないっすよ………
「さて、どうする?」
魔道士はバハムートちゃんを見る。 バハムートちゃんの瞳が力強く輝く。
「無論! 乗り込むぞ!!」
───決戦である!!




